首引き恋慕(サン音) - 3/4

 その媒介が短いために、サウンドウェーブがこちらへ寄りかかる様に立てひざをついた真正面から向き合う体制がこっ恥ずかしい。ごまかすように肩にかけた腕からコードを繋げた首へ舌を這わせると、ぴりぴりとした刺激がコードを通して伝わってくる。
 自分が与えたものが少し遅れて自分に帰ってくる。ひどく妙な感覚だ。
 指をレセプタに滑らせると、ついさっき俺のコネクタを半分まで受け入れただけあって中はほぐれたままだ。受容される刺激に集中しながら慎重に内部を探る。
 事実、無表情で無反応なサウンドウェーブに反してこれだけ刺激を拾っているのだから、サウンドウェーブもマグロってわけでもなさそうだ。良く考えれば、さっきまでの前戯の中でこれだけほぐれたのだから、表層に出ないだけでこいつにも感じるところがあるはずなのだ。
 そういえばこいつは五感が鋭かった。こいつのいいところを見つけられさえすれば、コネクタがあろうが無かろうが本当にレセプタだけでイけるようになれるかもな。
 ふいに伸ばした場所に指先で触れた途端、ビリッとした感覚が伝わった。強弱をつけてそこをなぞると、サウンドウェーブの機熱が上がる。

「お前さん、ここが好きだったのか」
「ウルサイ、黙れ」

 口調は荒いが、コードを通して共有される感覚で回路は素直に『好き』だと言っていることには続ける。触れるか触れないかの弱さでなぞり続けると腕で顔を隠された。
 ……もしかして、恥ずかしいのか?こいつがこうも羞恥という感情を表に出すのは珍しい。
 ゆっくりと指の動きを強めていく。同時にブレインに快感が押し寄せる。

「お前さんのことてっきりマグロだと思ってたが、そうでもねえんだな。こんなコード繋がねえ限り、口に出してくんねえとわかんねえって言ったに」
「…………ッ」

 返事をする余裕もなくしたらしい。場所さえ知っていればマグロどころか、実際はその逆か。
 声を押し殺すことで不規則になった呼吸に、口付けることで更に乱してやる。ブレインスキャンのせいでちょっとやそっとの駆け引きじゃいつも動じないサウンドウェーブのペースが崩れる原因が自分にある、という快さがあった。

「なあ、『ド下手くそ』にイかされそうなわけだけど、どうよ?」

 中でぐるりと指を回し、話しやすいように刺激を緩めてやる。サウンドウェーブがどう感じているのかが分かるから、今度はどんな風に何を考えているかが知りたくなる。
 俺はブレインスキャンみたいな芸当はできねえからな。
 なあどうなんだよ、と耳打ちする。

「こうイう快楽、というモノ、に、慣れてない、から、ブレインがおかしく、なりそうだ」
「そうかい、じゃあこういうのは?」

 どこがポイントだったのかも分からないほどに刺激を与え続けて発達したレセプタの中で、指を左右に動かす。コンマ一秒遅れてもどかしいようなむずがゆい快楽がゆっくりコードを伝ってやって来た。

「ヤメろッ……」
「やめろ、って言われてもなあ。これからもっとすげえことするってのに」

 座った俺を跨ぐように立てている膝に力が入るのが分かった。いつだって理性的で高みの見物していたいこいつにとって前後不覚になるのは恐ろしいことなのかもしれない。が、熱はこもる一方で、こうやって少しでも刺激が無くなれば余韻も残さずに快感の波はさっと引いてしまう。サウンドウェーブは適応して、刺激への許容量はゆっくり広がっている。限界があるとしても、その限界にはこのままじゃいつだって到達しない。俺だってこのままじゃ生殺しだ。
 それに、良く考えればこいつは「何回かごまかして気持ちよくなれば」と言った。つまりはこれから先、前戯以上のことを俺としたり、今まで以上の自失するくらいの快楽を受け入れたりする覚悟があったんだろ?
 腰を位置に寄せながら、背けられた顔の輪郭を舌でなぞる。

「……続けるんだろ?」

 相手が拒否しないことを分かっている上での質問――勝利宣言を言い放つのは愉悦だった。