相談
「ただいまー」
昨日、平日の昼間から家でダラダラする兄弟たちを口すっぱくたしなめたせいか、今日は珍しく部屋には誰もいなかった。
なんとなくがっかりしながら、勢い良く開けた襖を静かに閉める。
居ないなら居ないで寂しくもある。
とは思うものの、比較的足の軽いトド松はさておき、どうせ奴らの行く場所など金があれば競馬かパチンコか飲み屋、小銭さえ無ければ公園か土手かなんかをあてどなく時間を消費するだけ。
僕はそうならないぞという決意新たに、駅でもらってきた求人のペーパーを開く。
が、それから2ページほど読み込んだ頃に襖がゆっくりと開き、僕の就職活動は中断された。
少し視線を上げると、青いツナギの足元が見える。
「居たんだ、カラ松」
やっぱり周りに人がいる方が良いなんて思わないけど、嬉しくないわけじゃない。
わざとぶっきらぼうに尋ねる。しかし返事は帰ってこない。見上げれば、カラ松は少し顔を出して部屋を見回している。
誰か探してるのか?
「今日は誰も居ないよ」
「……そうか」
ほっとしたような声を上げたカラ松はゆっくりと部屋の中に入ってきて、僕のすぐ側に座る。
珍しいな。
そう思って求人に目を戻す。カラ松は話しかけなけなければ、鏡を見たりだとか自分の中にこもるタイプだし比較的静かだから邪魔にはならない。
しかし、カラ松の視線はいつもとは違い、僕の顔を覗き込んできて止まなかった。
「……何?なんか用?」
「いや、別に」
なんなの?正直気が散るんだけど。言いたいことあるならはっきり言えば良いのに。
なんか用と聞かれて、別に、っていう人間が何もないことあるはずがない。何か話したいことがあるのだろう。
参った。おそ松兄さんならこういうときすぐにピンとくるんだろうけど。
何も言ってこないやつに僕がわざわざ話しかけて聞き出す義理はないけれど、おそ松兄さんではなく僕にわざわざこうやってアピールしてくるにはなんかしらの理由があるはずだ。何かとあれば、うちの兄弟は長男であるおそ松兄さんに泣きつく。この次男は特にその傾向があったように思うし……かっこつけだから、最近は取り繕って弱みを見せたがらない。カラ松が僕に聞きたいこと。他の4人じゃなくて僕。
おそ松兄さんに頼めないとなると、金か?
それとも女の子か?いや、自信満々なカラ松が僕に聞いてくるとは思えない。
かまって欲しい?トド松や十四松ならそうだろうけど。それに何故僕かという理由にはならない。
クッソ。全然思いつかない。
読んでいる記事が頭に入らず、ついに放り投げる。視線を合わせると、さっとそらされ、僕はどうしていいのか分からなくなった。
カラ松の逸らした首筋には、生々しい噛み跡がまだ残っている。
「……その噛み痕、治んないね」
そう言うと、カラ松は顔を青くしたり赤くしたり、しどろもどろになった。
「えっ、ああ。そうだな」
カッコつけるならもうちょっと、いつでもドンと構えれば良いのに。
兄貴ぶる割りには兄らしくない兄にそう意地悪く思う。出生時間の僅差で僕の兄になったうちの次男坊は、鋼のメンタルの割に変なタイミングで弱くなる。六つ子の弟しては同い年であるが故に痛々しく、不甲斐ない。
『弟』としては……そうか、どうして僕に相談してきたか分かった。多分、話したいのは一松のことだ。いつもカラ松に何かと突っかかるくせに側にいる僕らの弟。
おそ松兄さんの一松のそういうところの矯正方法は結構荒治療な部分が多いし、同じ兄弟の真ん中という区分で僕の方が一松の気持ちも分からなくもない。
まあ、一松の頭の中が全部分かるやつなんていないんじゃないのかな。でも、十四松あたりは僕らより分かるかもしれない。とにかく、あのエスパーニャンコが居なかったら、一松が人間的感性をちゃんと持ってるのかも僕は理解できなかった。あの件以降、一松がすこし吹っ切れて余計に変人になった感じはあるけど……それでも、あの時あの居間に居なかったカラ松、一松が鬱陶しがっているこいつよりは一松を理解できてるだろう。
そういえば、この間飲みに行った帰りに一松とカラ松は先に帰ったはずなのに遅く帰ってきて、しかもカラ松はボロボロで『野良猫に噛まれた』とか言っていた。またあいつのカンに触れることでもやらかしたに違いない。
じゃあ、これは一松との喧嘩の痕か。
「どうせ一松に噛まれたんでしょ?」
そういいながら、兄思いの優しい僕は仕方ないから手元の携帯で『噛み痕 消し方』をググってやる――
「あいつも猫みたいなやつだからな。余計なこと言っておぶってる時に噛まれたとかだろ?それ、軟膏とか塗った方が良いんじゃないの。痕に残るよ」
――と、検索結果に出てきたのはキスマークの消し方ばかりだった。
「分かるのか?」
そう驚いた声を上げたカラ松の顔を見ると、首まで真っ赤になっている。
「は!?」
驚くのはこっちだ。手元の検索画面とカラ松の顔を交互に見る。
羞恥の赤、首筋の噛み跡、ふたり、キスマーク……あ、これは変なことに首を突っ込んだかもしれない。
カラ松は赤みの差した瞼を閉じ、吐き出すようにして僕の聞きたくない事実を喉から絞り出す。
「……一松に掘られた」
――はあああああああ!?
叫んで家を飛び出さなかっただけ、僕は偉い。
「ど、どういうことなの!?」
「いや……どうもこうも、酔っ払った一松が吐きそうっていうから路地裏連れてったら、急に首噛まれて、だな」
顔さえ赤いが、一度口に出してしまったカラ松の話し方は明瞭だ。
いやいやいや!!おかしいからね!!兄弟だし!6つ子だし、同じ顔だし、近親相姦!てか男同士だから!いやネットとかだと『兄弟がホモだけど、質問ある?』とかスレであるけど、現実に本当にあるのかよ!!
酔っ払ってたって普通セックスしないから!そんなんだったら、この兄弟全員ヤバいから!しかも掘られたのお前!?いつもあんなに嫌ってる相手によく勃ったよね、一松!兄弟の中で一番フェミニンめなトド松だったら千歩譲って分からなくないけど、カラ松ってどっちかって言うと一番男くさいじゃん!ああだからゲイ受けが良い的な?てか一松ってゲイなの?でも皆昔からトト子ちゃんにはメロメロだし、二人ともゲイじゃないはず――てか、カラ松はナンパしてるし完全に女の子好きだろ。一松に抵抗しなかったのか?
言いたいことがありすぎて、絶句するしかない。しかもカラ松の口ぶりから察するものは、うちの兄弟からついに法に触れるようなことしちゃったやつが出てきたらしいということ。
確信を求めてようやっと絞りだせた質問は、あまりにもやんわりとしていた。
「ほ、本人同士の同意の上でだよね?」
カラ松は首を横に振る。
「いや、俺だって抵抗したけど、一松に完全に抑え込まれてて、途中から優しくなったから……」
やっぱり、一松から無理矢理仕掛けたのかよ!そんで流されてやっちゃったのか!?ビッチとかの『そういう流れで?』ってよくあるやつ?よくあるのかはクソ童貞のイメージでしかないけど!強姦されてるのにその途中で絆されるとかお前どんだけ頭カラっぽなんだよ、カラ松!いつも殴られてもお前怒んないけど、それ違くない!?今回のは怒るべきじゃないの?しかもなんで『優しくなった』ってそんなちょっと嬉しそうに言うわけ?お前のチョロさマジ心配なんだけど!
僕の頭の中の偏見、ビッチが言いそうなことランキング上位の言葉が兄の口から出て、目眩がする。
気持ち悪い。
色々なありえない要素が頭をシェイクしてくる。しかし、そうばっさりと切り捨ててしまうにはカラ松は真剣な顔で。喉まで出かかったその言葉を僕はやっとの事で飲み込んだ。
「で、俺はこれから、兄としてどう一松に接したらいいと思う?」
掘られても、まだ兄弟を続けようとするのかこいつは。どうして?僕だったら、もう一松の隣で寝てられなくなるし、他の兄弟との関係性もぐちゃぐちゃになってしまう。
だって、今まで自分が兄弟だ家族だって思ってたやつが、自分を家族としてではなく性的な対象として一瞬でも見たってことでしょ?確かに一松は何考えているかも分かんないし、何かやらかしそうではあったけど、まさか自分の兄弟とっ捕まえて犯すなんてそんな。僕もそういう目で見られてたのだろうか?酔ってたからってカラ松は言うけど、酔ったって兄弟同士でそんな発想はねえよ!
おそ松兄さんは良い兄貴だけどクズだし、十四松はエロはわかってるようだけど恋愛方向は全然想像出来ないし、トド松はまともな方だけどやっぱりクズだし、一松も……あの一松だ。
さっき、カラ松よりは一松のこと分かるって思ったけど、前言撤回!分かるか!
「無理矢理だったが優しかったし、この数日、あいつは俺に何も言ってこなかった。いつもと変わらなかった。別に俺を掘ったのは、俺を蔑む為でも好意を持っていたのでもないみたいだ。もし、気の迷いでやっちまったんだったら、あいつすごく後悔してるだろうし、もし俺が流すことで今まで通りに出来るなら、他の兄弟のためにもそうしてやりたい」
全く、こういうところだけは、おそ松兄さんやカラ松兄さんには敵わない。
確かに、一松は黙っているからこそ溜め込みやすい質だ。下手に触れたら、お前を殺して僕も死ぬなんて言い出しかねないし、もしかすると、きっかけさえあれば実行するかもしれない。
実際、この数日、誰も気付かなかったのだ。
流そうと思えば、本当に流せられる。その方が、僕だってありがたい。今まで通りになるならそれでいい。
カラ松兄さんさえ、良いのなら。
そう言おうとも思うが、既にカラ松自身は覚悟が出来ている。僕が何か口に出す必要はもう無いのだ。
「いや、兄としてもどうもこうもないでしょ。もう自分の中で、答え出てるんでしょ?兄さんの言う通り、酔っ払ってノリで、なら一松はすごい後悔してるだろうし。何も言わず、今までと同じで良いんじゃない?」
もし、カラ松が許せるのなら、僕だって今日聞いたことは墓場まで持って行ってやる。
確かに驚いたけど、一松だし。何があっても兄弟は兄弟だし。
冷静になって考えれば僕は一松に関してはなんとなく掘られることがないと思う。カラ松ほど頭が軽くないからか、カラ松ほど一松になめられてないからか。
酔ったら理性ゆるむっていうし、こいつなら大丈夫だと思っている延長で今回のことが起こってしまったんだろうし。そういう点では一松もクズだけど、酔って理性が飛んでたとしても人選は間違っちゃいない。
ホッとしたカラ松の顔を見て、後ろめたくそう思う。これが弟に掘られた側のする顔かよ。
「……やっぱり、チョロ松に相談して良かった」
「えっ」
そんな僕の頭の中を覗いたようなタイミングでカラ松はそう言って笑った。
「俺を頭ごなしに否定しなかったし、一松のことをちゃんと考えてくれたしな。流石は俺の弟で一松の兄さんだ。ありがとうな」
何がありがとうなのか。ああ、でもそう言えば、こいつも僕に拒否される可能性もあったんだよなあ。
こういうセリフを言う時に、格好つけてポーズをしてなければもっと格好良かったんだけどね。
「この兄弟だと色んなことあるし、もう慣れたよ」
僕もやっと笑い返せる。
とはいえ、いつもはすぐボロを出すし会話にもならないサイコっぷりを見せるカラ松が、こんだけ真面目に1人で考えて隠してたんだから、掘られるってのは相当の経験だったらしい。個人的にはミスターフラッグの時のアレがあるから、尻に異物が入るなんて痛いというイメージしかない。
「とりあえず、その噛み跡は痛そうだから、このクリーム塗っときなよ」
湿っぽくなった空気を一掃しようと立ち上がり、薬箱の中の軟膏をカラ松に投げる。
「他はなんか怪我してないよね?もし……その、ケツとか切れてんなら病院とか行った方が良いんじゃない?」
カラ松が鏡を覗き込みながら首筋に軟膏を塗るのを見ながら、忠告する。
するとこちらの方は一瞥もせず、カラ松は少し変な顔をした後、あっけらかんとして言った。
「一松がなんか全部やってくれたし、痛かったけど別に生活に支障が出るくらい切れもしなかったな」
うわあああああああ最初の部分聞きたくなかった!!
でも、男としては興味が無いわけでは無い。
ネット見てれば、変な性癖のやつとか多いし、掲示板でアイドルの画像を上げるスレの流れで変なオナニーやってる奴のレスもあれば、単独で特殊性癖のスレがたつことも多い。あまりに多くの人数がアナニー挙げるから、ググったことがないといったら嘘にはなるのだ。
尻責め系だって女優に責められるマゾとか手コキ系だってAVあるし、てかみんなで観たことあるし!
「え、じゃあ、やっぱりAVとかみたいに、前立腺刺激って気持ちいいの?」
「んー……まあ、それなりにな」
それなり、か。そういえばうちの兄弟はみんなクソ童貞だから比較対象がない。ハタ坊の貫通式で兄弟仲良く童貞シロウト処女みたいなもんだけど、別にセックスじゃなかったからノーカン。
でもこれで一松は非童貞みたいなもんだし、カラ松は童貞非処女か。……やばい、カラ松かわいそう。
つい、隣に座っている兄の尻を労りの目で見てしまう。悲しいことに、銭湯でのおそ松兄さん先導のチンコ当てクイズとかいうふざけた企画で最近まじまじと一松の平常時のイチモツを見たことがある。
「へ、へえーそんなに簡単に入るもんなんだ」
「俺もよく分からないが、とりあえず入ったことには入ったな」
ハタ坊の旗ほどじゃないにしろ、カラ松にアレが入ったんだよなあ。つまり、どうにかすれば僕のもカラ松に入るし、僕も自分のに入れようとすれば入るんだろうな。例えば、今カラ松が手にしてる軟膏と指サックなんか使えば、指くらいはそれはもう易々と。
基本的な規格がに自分に似てるから、変な想像をしてしまった。
六つ子ってやだね。って、いやいや、今何想像したんだ!実の兄だぞ、僕!ちゃうわ!掘られたいとか掘りたいとか思ってないし!童貞はにゃーちゃんに捧げるつもりだし!いや、べ、別ににゃーちゃんのことそんな目で見てないけど!!
なんか、じわじわ変な気分になってきた。でも、ちょっと、触ってみたい。
「カラ松、ちょっとそれかして。塗れてないとこあるから」
出来るだけ自然に聞こえるようにそう言うと、カラ松は素直に蓋の開いた軟膏の容器を渡してくる。ツナギの襟を引っ張って背中を出させても、何も言ってこない。
本当にチョロすぎて心配になる。お人好し過ぎる。疑いがないって怖い。
一松もこんな気分になったのかな。これはカラ松も悪い。って、一番悪いのは僕だけど。
「でも、一松もちゃんと前戯してくれて良かったね。ほら、前に皆で観た女優責めのやつ。あんな感じ?」
「ああ、乳首攻めとかフィクションだと思ってた。爪たてられて、痛かったけどな」
クリームを手に取りながら、カラ松の後ろに立つと、黒いタンクトップの隙間から、乳首が見える。
いつの間にか、僕は口の中が乾いていて。意識すると唾が出てきて、カラ松に返事をしようとしてもすぐに返事ができない。
「……爪、たてられたんだ」
やっと出せた声は自分でも調子がおかしかった。
やばい。
「えっ、」
衝動的に、服の中に手を突っ込む。
「、ちょっ、チョロ松?そこは別に塗らなくても――」
乳首、ちょっと硬くなってんじゃん。
「ちょっと黙って」
指の腹でタップしたり伸ばしたり爪先で引っかいたりして弄れば、微かにカラ松が震える。
「んっ だめ、だチョロ松……!」
あああああああああヤバイ!僕は兄弟の常識枠なのに!てか、ちょっと開発されかけてるし!感じてんじゃねえかカラ松!
頭が混乱してくる。
このまま押し倒しちゃえば、確実にヤれる。いやでも、こんなんでも兄貴!しかも、弟に掘られたとかってことを相談してきてくれたくらい信頼してくれてる相手なのに!流石に弟二人に掘られたとかヤバイだろカラ松!別に僕、カラ松のことは家族としては好きだけど、恋愛感情とかそういう好きじゃないのに、こういうことしていいの!?
とは思いつつ、やめ時が分からない。その時、
「……ん、!」
乳首を摘む手を遮るように身を震わせてぎゅっと腕の中で縮こまった背の首元の噛み跡が目についた。
「う」
それを見た瞬間、さっきまで浮かびもしなかったことが頭をよぎり、僕は小さく声をあげて後ろに飛びのいた。
そうだ、一松。カラ松は酔っ払ってたからって言ってたけど。こんな分かりやすいところに噛み跡を残すって、あいつ、カラ松のこと好きなんじゃないの?だって、キスマークってよく分かんないけど、そういうことでしょう?でも、あいつとこいつのいつものやり取りを見てたらそんなこと――
『でも、その割に一松っていつもカラ松の近くにいるよな』
いつか一松が冷たいと拗ねたカラ松にかけた言葉を思い出す。
そうか、そうだった。僕は知ってた筈なのに、なんで気がつかなかったんだろ。セックスって流れとか興味でやるもんじゃなくて、普通に好意があって成立するもんだろ。
カラ松は気づいてないけど、一松はカラ松好きなのかもしれない。だってあいつのいつものカラ松への容赦の無さだったらもっと大怪我してるだろうし、他が見ても分かんないように誰にも相談できないようにカラ松を精神的に追い詰めることだって出来た筈だ。
『野良猫に噛まれたんだよ』
カラ松がああ言った時、あいつどんな顔してた?皆はカラ松のポーズに辟易して見せた。でも、一松は?覚えていない。
気がつけば、動揺した僕の方をカラ松が振り返りぽかんとした顔で見つめてきている。僕は咄嗟にそのはだけた上半身を元通りに直してやり、もっともらしく体裁を取り繕った。
「ほら、こんなに無防備にしているカラ松も僕はよくないと思う!襲われても全然抵抗しなかったし!」
「お、おう」
僕の勢いに負けて、カラ松が頷く。
勝った。
「一松も、ちょっと兄さんのこと舐めてる節があるっていうか。カラ松はちょっと甘すぎだから!さっき、いつも通りにしろって言ったけど、そういうところは少し危機感持った方がいいと思う!何しても許して甘やかすのと可愛がるのって違うからね?一松はカラ松のそういうところに甘えてる節があるから、嫌なら嫌ってハッキリ言わなきゃ駄目だから!分かってる?」
がなっている内に、落ち着いてくる。カラ松は完全に反論のタイミングを失って、ただただ頷いた。やっぱり駄目だ。チョロすぎる。いや、都合は良いけど!
言いたい事を吐き出した僕は深呼吸をする。あとはカラ松が了解しくれればいい。次の言葉を待つ。
「……フッ、つまり、兄貴たれってことだろ?任せろ」
余裕だぜ、と髪をかき上げながらカラ松は不敵に笑ってみせる。
あ、こいつ駄目だ。またいつか誰かに掘られるな。
脱力すると、カラ松は慌てたような表情になった。
「いや、でも、お前が色々俺を思ってしてくれたことで、得るものはあったから心配するな!今の俺ならイケる!ありがとうな、チョロ松」
……なんでそんなスッキリした顔してんだよ!!あああああ!!バカだ!!やっぱりこいつバカだ!!なんでこいつを乳繰ったんだ僕!
それにしても、前立腺か。まあ、僕も得るものがなかったらと言うと嘘だけど。今日のことはもう忘れよう。まったく、カラ松本人より、僕の方がこれからの身の振り方考えなきゃ駄目じゃないか。
機嫌よくいつものように手鏡を取り出したカラ松を横目に、僕は軟膏の蓋を閉めてため息をついた。