恋の毒薬1(ホイラチェ) - 1/6

「いやあ、アレは傑作だった」

 私を修理しながら、先ほどの光景を思い出したらしいホイルジャックがくすくすと笑って目を細めた。
 数デカサイクル前の戦いの最後。デストロンの新兵器が暴走して友軍に暴発、しかも設計者だったらしいサウンドウェーブが被弾。兵器自体は自爆。それが彼には面白かったらしい。修理中で黙っている私をよそに、ホイルジャックの含み笑いはまだ続く。

「あの兵器もデストロンの考えたものにしては、良く出来ていた方だけど」

 もともとかなり威力があったらしく、『鼬の最後のなんとやら』だった割に、サウンドウェーブのマスクやバイザーが全壊して慌てて退却するレベルの損害が与えられていた。
 恐ろしい限りだ。
 敵であろうと味方であろうと頭にビームが当たるのを間近で見るのはいつになっても慣れんな、としみじみと思う。サウンドウェーブの顔ってのはそういえば初めて見た。マスクといえば、このホイルジャックもそうだが。

「吾輩だったら、もっとうまく作っただろうね!」

 そうだろう。もし、あの兵器がホイルジャックの作った完成品で、彼が暴発したビームの餌食になっていたら。そう想像するとゾッとする。
 この自信家の懲りない『天才』発明家の作るものは、そこらへんの地球人の女子大生がいじくれるほど単純なようだが、驚異的な武器となるものが多い。発想や応用が桁違いなのだ。だから発明が成功しさえすれば、作ったものはすぐに彼の手を離れ、軍事転用されることも少なくない。誰かを生かしたり楽しませたりもするが殺したり悲しませたりもするのだ。もし失敗しても、彼自身や仲間たちが怪我をすることになることも多い。
 前にチップを『たまたま頭が良すぎただけさ』と慰めていたが、あの言葉が彼の口から出たのは皮肉だ。
 セイバートロン星でこの戦争が起こってホイルジャックのラボがデストロンの手に落ちたのも、彼の発明品を押収するためだった。
 出来たよ、と私にかける声の明るいのを考える限り、何か今の一方的な会話の中で思いついたらしい。追憶をブレインから締め出し、慌てて釘をさす。

「しばらく新兵器を作るのはやめてくれよ、ホイルジャック。君が壊れた時のリペアは特別骨が折れるんだから。いつも君が自爆した時に私がどんな気持ちになるか想像したことがあるかね。イモビライザーの時なんかは気がおかしくなるかと思ったよ」
「それは、なんというか、悪かったね。君の医療に関する心情はよーく分かるよ? しかし、吾輩にも科学者の本能として好奇心には勝てなくてね」

 このたしなめる言葉も何度目になるかと思うと気が遠くなる。
 壊れたら直せばいい。
 でも、このひとは、私がどれくらい心配してるか分からんのだろうなと思う。ホイルジャックがもし捕虜になっても、技術力と発明品の為に生かされるだろう。だから、結局彼を最期に吹っ飛ばすのは彼自身の発明品なのだろうという予感がある。
 まあ、発明しないホイルジャックってのも想像出来ないし、私やホイストが居てやれば良いのだが。

「まったく……また何か思いついたんだろうけど。たまには兵器以外の平和な道具でも作ったらどうだね?」

 そこまで言って、自分の迂闊さに驚く。ホイルジャックが興味のままに作ったものや平時の為の日用品や玩具なんかでも、ホイルジャックの意を超えて軍事利用されたことは今までに何度もあった。だから、最近では最初から兵器として発明品を作っているのだった。こういう話題には気をつけていたつもりだったが。

「へへ、バレてたかね? いやあ、ラチェット君は全てお見通しってわけで」

 しかし、話者が私であるということと今までの文脈から、いつもの小言程度に受け取ったのだろう。ホイルジャックはいつもの調子で、いたずらを注意された子どものように笑った。
 その朗らかさにほっとする。

「まあ、怪我をした時に吾輩を修理するのはラチェット君だし、君にそう言われたら敵わんなあ。この間アラート君にも武器庫に保管している兵器の量が多すぎて管理が大変だなんだって怒られたばかりだし、たまには有事以外にも何か需要に合わせてみようでないの」

 頼むよ。そう言うと、吾輩に任せなさい、とホイルジャックはVサインをして見せた。