へっ、流石は鉄仮面の情報参謀様。ちゃーんといつも通り仕事していやがる。
心配になって様子を覗きに来た俺としては内心舌を巻いた。前に今回は珍しく立ち仕事じゃなくってデスクワークだというのは聞いていた。それでも、不調になったりしたら……と気にしないわけにはいけない。俺が原因のひとつであるからだ。
でも、心配するまでもねえよなあ、相手はあのサウンドウェーブだってんだから。何も変わらず、以前と同じまんま。よがり狂ったことなど微塵も感じさせねえ。
自分が必至に刻みつけたものが消え失せたそんな後姿に、正直グッと来る。
完全に征服したと思っても、その自信が固まる前にまたすぐにサウンドウェーブを見失ってしまう。追いかけ続けるのに疲れる時もあるが、こういうところに何か常にかきたてられるものがある。
『こうイう快楽、というモノ、に、慣れてない、から、ブレインがおかしく、なりそうだ』
あんな聞いたことねえようなすげえ台詞吐いといてよ。
1ソーラーサイクル前に聞いた台詞をふいに思い出して、ギャップに回路が焼け着きそうになる。フレンジーやランブルといったカセットロンがやっこさんの周りに居て作業してるってのも、そん『日常』の認識に拍車をかけていた。
「サウンドウェーブ、そろそろ終わりじゃないのか?」
しばらく遠くから黙々と作業する姿を覗いていると、フレンジーが急に顔を上げ、サウンドウェーブに声をかけた。たしかに、ランブルもすでに手を止めてぼんやりしていた。その言葉に、サウンドウェーブは周りを見渡す。
「アア、ソウダナ……」
おっと。
壁際にもたれかかっていたせいでその視線からは逃れられず、ばっちりと目が合った。
バレちまったら仕方がねえ。
サウンドウェーブが完全にこちらを向くと、フレンジーたちが小さく沸き立つのが分かった。これじゃあ、俺がサウンドウェーブを待っていたようにしか見えねえ。つまりは、いつもならそろそろ作業は本当に終わりってこった。タイミングが良かったのか悪かったのか。仕方なく、小さく手を振って歩み寄った。
「よう、調子はどうだ?」
「サンダークラッカー」
サウンドウェーブも観念した様子でゆっくりと立ち上がる。いや、立ち上がろうとして――急にバランスを崩してよろけた。
1ナノクリックにも満たない時間の中、俺はその群青の機体を咄嗟に抱きとめる。
「だ、大丈夫か?」
「アア。問題ナイ」
よろめいた割にサウンドウェーブはいつもの調子だ。面倒くさそうに、もとの椅子に座りなおす。その様子に安心したのか、カセットロンたちはからかうように笑った。
「今日のサウンドウェーブ、ずっとそんなんだよな」
「サンダークラッカーと遅くまで飲むのは良いけどよ。何メガサイクルも後引くような飲み方すんなよな」
今日一日、こんな感じだったってのか?つまりは昨晩の接続の負担が後を引いてたって事か。
驚き、サウンドウェーブを見下ろすが、その表情はマスクとバイザーに隠れて見えない。俺の追及を切り上げるようにサウンドウェーブは作業の終業を宣言した。
「作業は完了シタ。カセットロン部隊、各自任意撤退セヨ」
即座に歓声を上げたフレンジーがコンパートメントからそそくさと出て行き、ランブルも珍しくサウンドウェーブの胸部にリターンすることなくフレンジーを追いかけていく。ものの1サイクルのうちに部屋の中は空になった。