「お前って、あいつらに俺とのことって話してるのか?」
「マサカ」
しれっと答えるところをみると、本当らしい。
サウンドウェーブは事後処理を淡々と始めてしまう。そこからは話さなくてはならないことしか残っていない。しばらくの沈黙の後、俺は腹をくくった。恐る恐る会話を切り出す。
「悪かったな、無理させて。心配して見に来ては見たんだけどよ。やっぱり不具合とか出たんじゃねえか?」
「気にスルナ」
気にするなとは言っても、どこか不機嫌に見えるサウンドウェーブに不安感を煽られる。手が止まっても、こちらを見もせずに座りなおした姿勢のまま一向に席を立とうともしない。
こりゃあ本気でやばいんじゃないのか?
「歩くのが辛いってんじゃあ、俺がオペ台まで連れてくぜ?トランスフォームしろよ」
その腕を引っ張ると、俯いていたサウンドウェーブがやっと俺を見上げる。
「……ヤメロ、今動クと、漏れ出ル」
そう言うと、気まずげにサウンドウェーブは顔を背けた。
動くと、漏れ出る。何が?何処から?一連の疑問がブレインの中を走り、俺は一時停止した。
まさか。しかし、こいつそういえば今までに最後までヤりきったことは多分無かったはずだ。もしかして、後処理の知識を知ってなかったのか?それとも甘く見ていたのか。もしかして、その漏れ出るってのは俺の――。
ブレインスキャンなんて能力持ってやがるサウンドウェーブについては、反応が無いのが何よりの反応という時もある。俺は引っ張る腕を掴みなおした。サウンドウェーブをそのままフロアに組み敷く。驚きながらも反射的に受身をとったサウンドウェーブは状況を理解した途端、俄然抵抗を示し始めた。
「何をスル!」
「あんたあの後、こんナカを洗浄しなかったのか」
フロアに押さえつけながら指先でレセプタのハッチを軽く叩くと、サウンドウェーブが身じろぐ。ビンゴ。
「ここ、開けろよ。お前さん、内部から錆びるぞ」
「……ココでカ?」
サウンドウェーブが抗うのを止め、こちらをじっと見つめてくる。信じられないといった様子だ。確かに、その通りだ。急に俺も冷静になる。
俺とすれば今のところは中を洗浄させられればいい。俺に非がずっと残った状態でこいつとのまだ手探り状態の関係を留め置ける自信はないしな。
「かき出すだけだって。なんなら洗浄室に行ってもいい。こっから近いしよ」
身の潔白を示すために、掴んでいる手を離す。すると、一応は信用に値したらしい。サウンドウェーブも動くのをやめてこちらをじっと見つめてくる。
これは、本当に俺が連れて行くってことなのか。
横暴にも見えるが、言い出したのは俺だ。これで本当に連れてってやる俺もアレだが、惚れた弱味というものがないわけではない。舐められてんのか。いや、こいつは大真面目だろうな。それに、体を動かすと内部で滴ってくるものの違和感に耐えられないのだろう。俺は原因の一端だ。責任は取らなくてはならない。
腕を広げてはみたものの、どう運べばいいのかと動けない。すると、サウンドウェーブは俺の腕を支えに自力で立ち上がった。
「冗談ダ。他ノ奴らに見ツカルと、面倒クサイ」
そう言って入り口に向かって歩き出す。冗談だと撤回するようなトーンではなかったが、なんとなく、サウンドウェーブがわずかに笑ってたような気がした。
甘え、られたのか?
サウンドウェーブの後姿からは何も推し量れない。