自分で歩き出したものの動くと漏れ出そうだと気にしているらしく、いつも以上にサウンドウェーブの動きが鈍い。時たま体を震わせる様子を見ていると、理由を知っている身とするとこの状態のこいつを他の奴に晒してやりたい……とやや加虐的な衝動にかられる。
時々、サウンドウェーブを見てると、強い感情に突き上げられることがある。この攻撃的な欲望は、ブレインで処理しきれない欲求の残りかすなんだろうが。惚れた腫れたの感情の強さをすぐに『簡単』な表し方をとろうとする。
頭を振り、邪念を振り払う。こんなことをサウンドウェーブにブレインスキャンされる訳にはいかない。
以前に俺に対しては頻度を下げるようにしたと言われたことがある。俺がサウンドウェーブに対して考えていることが、やっこさんのブレインが処理しきれずに支障が出るらしい。一応は信頼があるわけだし、害意はあまりないと判断されたらしい。サウンドウェーブが俺のブレインの衝動に関しては諦めたってこともあるだろう。情報の裏取り中毒のこいつにしはものすごい進歩だ。
しかしいつ覗かれているのかは分からない。この間まで未開発だったわけだし、あまりに刺激を与えすぎたら避けられるかもしれねえしな。こんな状況じゃ、次があるかってのも疑問なんだけどよ。
自分の中から何かが制御出来ずに不規則なタイミングで漏れるってのは、コントロール出来ない状態を好まないこいつには辛かったろうな。
前を歩くサウンドウェーブを見ると、また申し訳なさが生まれる。
「大丈夫か?」
「……アア」
返事はするものの、大丈夫かって聞く方がおかしい状態だよな。
やっぱり、俺が運んだ方が早いんじゃねえのか?サウンドウェーブを持ち上げたことはないからどれだけ重量があるかは知らないが――
誰も周りに居ないことを確認する。レーダーにも映っていない。腰に腕を回して、そのまま上に抱える。
するとサウンドウェーブが小さくうめき声を上げた。
このタイミングで腹部を圧迫するような持ち上げ方はまずかったか。慌てて脚部を片足で支えて持ち上げ、水平に抱きかかえる。横抱きの見た目はこっ恥ずかしいだろうが、正直見ていられなかったのもある。まあ、移動速度が縮まった方がいいだろ。
洗浄室のスイッチを足で押し、さっさと中に入る。ドアを越えた水捌けのいいフロアに降ろした途端、サウンドウェーブは黙って洗浄槽のすぐ脇の壁にもたれかかった。
「すまねえ、腹で持ち上げちまって」
「大丈夫ダ」
原因から何から俺のせいだが、大丈夫って様子じゃねえだろうが。
俺はサウンドウェーブという機体に驚いていた。
耐久性があるって言っても、意外と、軽かったな。人間のカセットプレーヤーにトランスフォーム出来るだけはあった。質量保存の法則が吹っ飛ぶ。よくも反動無しにブラスターガンを吹っ飛ばせられるものだ。
そう考えるうちに申し訳なさに思考がみるみる染まっていく。
「なあ、」
自分で洗浄するなら出てくが俺がやった方が、と尋ねかけてやめる。接続から何十サイクル過ぎているし、かき出す思案も無かったほどのビギナーのこいつに出来んのか?それでも、実際に触れたりなどしたらさっきから妙に思考回路をよぎっている劣情に火がつくだろう。
また俺がうだうだと考え始めると、サウンドウェーブがマスクを開けて長い排気音を立てた。
「……責任くらいハ、最後まで取ッテイケ」