スローダンス(仏英) - 1/6

視界の隅で、真っ白い手袋をつけた御婦人が誘うように厭らしくその純白をちらつかせていた。
その手袋の白さは──私はメイドに全てやらせてますのよ、という裕福であることの象徴なのだが、夫がある身でありながら他の男にそんな誘うような素振りをするのを、イギリスは気に食わなさそうにしていた。

「御呼びのようだぞ」

向かいあって座るフランスがイギリスを囃すように、その手付きを真似る。
それを受けたイギリスは、露骨に嫌な顔をして見せた。短い舌打ちの後、二人が座るテーブルの斜めに座る御婦人にイギリスは凄んだ。哀れその睨みを受けた彼女は、その鋭さに怯えたが、すぐに侮辱と分かると怒って立ち上がって行ってしまった。
イギリスは鼻を鳴らしてそれを見送る。

「紳士はレディスに優しいんじゃあないのかイギリス?」

男として、女性の誘惑を突っ返した向かい男を賞賛するように口笛を吹く。

「若い男なら誰にでも猫をかぶるああいう白粉くさい女が嫌いなだけだ」

イギリスが別に白粉が嫌いではないことをフランスは知っていた。
その言葉は自分に対する当てつけで、
“よくあんな女なんかと”
と、暗に言っているのだ。

「分かってないね坊っちゃんは。お兄さん的には、男に媚びる女は可愛いとは思うけどね」
「お前が好きなのは、一晩だけの下品な女じゃねーのか」

ねっとり嫌味を込めて話は進む。いつものことだ。しかし、フランスはイギリスがそんな女を嫌うのを快く思っていた。
やはり、若さ故の潔癖なのだろうか。イギリスももう少し嫌な意味で大人になれば分かるだろう。今のように変な所が幼く純粋な彼だからこそ──その毒に侵されれやすい

「何ニヤニヤしてんだよ」

目の前でイギリスが眉を寄せている。

「……お兄さんは大人だからそんな一晩だけの人もいるだけさ。坊っちゃんには分からないと思うけどね」
「子供扱いすんな」

先程の御婦人さながらに怒って席を立ち上がる。そんなイギリスに、フランスはため息を吐きつつ自分も立ち上がり、店を出た。

仕込むのは、少しの毒でいい。嫉妬は死に至るから。