160字×30題(仏英) - 6/6

チビ時代の仏英的160文字作文

25 世界
散髪後、切った髪の端が至るところでチクチクする。「うん、坊ちゃんはやっぱりこの髪型が似合ってるかな」いつものによによ笑いのフランスにふんと鼻を鳴らしてやった。俺だって別に変えるつもりなんか、と言い返してやりたいが、すぐに見破られてしまうだろう。フランスに会って、広がってしまった世界が、笑うあいつの向こうに眩しく見えた。

26 雨
小さく息をするのにも強い香りが鼻腔へと上り、口の中が甘くなったかのように錯覚してしまう。金木犀がぽとぽと橙の雨を降らす木の影。ぎゅっと背に手を回され、初等部のトレードマークのサスペンダーがずり落ちていくのが分かった。息の吸えない小さな呻き声で、フランシスはアーサーから唇を離す。強い芳香の小雨は、まだ止む気配はなかった。

27 テスト
フランスは兄貴風を吹かすが、ちょっと甘えたがり屋なところだってある。そうじゃなかったら、どれだけ相手に自分が好かれているか試すようなことをしないはずだ。「イーギリス」後ろから抱きついてきたフランスの髪がくすぐったい。「ちょっとの間、このままでもいい?」いつもの子どもじみたテストが始まる。俺が断る理由がないと気づけばか。

28 きらい
いつものようにフランスをからかおうとして姿を探すと、日だまりの中で居眠りをしているのを見つけた。小麦畑の色をした長い髪がそよそよと風になびき、金色の睫が陽に透けている。豊かな髪をわさわさと触ると、フランスは夢の中なのに微笑んだ。そして呟く。「イギリス」自分が呼ばれたと分かり、顔が赤くなった。「やっぱり、お前、なんか、」

29 すき
はっと目が覚めると、うっかり昼寝をしてしまった自分の横で小さく丸まったイギリスが眠っていた。かわいいところもあるものだ。ぎゅうっと抱きしめてしまいたい。眠る幼い顔が余計にあどけなく見える。安心感を持ってくれたらしいという喜びに、起こすことだけは咎められた。頬を先指でなぞり、おやすみのキスを落とす。すきだよイギリス、と。

30 眠る
けたたましい叫び声に身が震え、目を開けると、フランスが大騒ぎをしていた。辺りはもう薄闇。何時間眠っていたのだろう。「もう坊ちゃん、何でこんな時間まで起きなかったの」そのままブーメランで返したい。「うるせーお前の横いると眠くなんだよばか」隣が安心するんだから。駆け出そうとするフランスが差し出した手を、俺はぎゅっと握った。

2010/12/5