同棲中の仏英的160文字作文
20 舐める
味見して。によによ笑いながらフランスがカナッペを差し出す。受け取ろうとするとひょいとそれは目の前から逃げた。「イギリス、ほら、あーん」しょうがなく開けてやる。一口大のそれを口に押し込めようとした瞬間、指ごと噛みついてやる。「うまい」フランスが楽しそうに笑った。「君に噛まれた指が痛い」「言ってろ」俺は笑って、唇を舐めた。
21 半分こ
仕事場に置いて行かれた菓子折りの中身は有名所のケーキだった。こういう物はフランスが喜ぶ。「坊ちゃんはどっちのが良い?」わくわくしているようにフランスが急かした。こういうところだけは幼い。「どっちでもいいから、半分ずつにしてお前、先に食えよ」そんなフランスにいつものセリフを俺は返した。美味しいと言い合うのは小さな幸せだ。
22 習慣
フランスは季節の果物が店頭に並ぶと必ず買ってきて、ジャムを作る。(果実酒の時もあるのだが。)その日だけはいつもはスパイスの匂い漂うキッチンが、甘い香りでいっぱいになる。俺はフランスの横でそのジャムの灰汁でロシアンティーを淹れる。本当にどうでも良いようなとるに足らない日だが、俺はどうもそのジャムの日を楽しみにしてしまう。
23 てのひら
隣を歩く照れ屋は、人前で触られたり触れたりするのをひどく嫌がる。買い物には付き合ってくれるのだが。トンネルにさしかかり、ふといたずら心をが浮かんだ。そっと手に触れる。最初は驚いたように嫌がったが、しっかり握ると、観念したように大人しく握らせてくれた。トンネルの出口が近づく。それでも、照れ屋が手を振り解く様子はまだない。
24 色
買い物をしていて、目の隅に留まった深い緑色のマフラーにひどく関心を引かれる。最近では、緑を見ると、否応無しににあいつのことが浮かんでくるのがとても癪でしょうがない。意外と忘れっぽいイギリス。マフラーだって結構無くしては新しいものにころころと変えている。これを贈ってみようか。クリスマスにかこつけて、誕生日のないあいつに。
2010/12/5-12/16