やっこさん、どこへいっちまったのか見当もつかねえや。
サウンドウェーブについての情報を自分があまりに持っていないことが痛感させられる。脅されて良いように使われることも無かったし、良いも悪いもその程度の間柄だ。だいたい、喋るのも無線通信などを通してが多かった。
そうだ、通信があったか。
気づいて即座に個人通信を飛ばす。
「……って、出ねえか」
我ながらよく思いついたと思ったが、応答がない。一体、どこに行けばいいんだ。こうも探しても見つからない。リペア室には来る気配もない。護衛の任務についたものの、本人がいないんじゃお話になんねえよ。サウンドウェーブが居そうなところなど――
「カセットロンの連中なら知っているかもしれねえな」
フレンジー。あの小さな機体なら先ほどすれ違ったはず。
猛スピードで引き返すと、スカイワープにちょっかいをかけられているフレンジーの姿があった。スカイワープをセンサーが捉えた瞬間、先ほどよくも逃げてくれたなという怒りがふつふつと湧き上がってきた。が、今はそれどころではない。
「フレンジー!お前さん、サウンドウェーブの居そうな場所知らないか?」
からかうスカイワープに気が立った様子のフレンジーを刺激しないよう、出来るだけ柔らかい口調で尋ねる。しかし、
「はあ?お前に教えて何になるっていうんだよ」
とフレンジーは不信感を滲ませて戸惑うだけだった。その隣でスカイワープがにやりと笑ってみせる。
「その様子じゃあ、陰険参謀の護衛の任務はおめぇに決まったんだなァ。フレンジー、こいつはしばらくメガトロン様のご命令であいつの護衛につくことになったんだよ」
スカイワープが茶化すようにそう言った。その面を張った押したくなるのを抑える。
お前らが逃げたからだろうが!
しかし、それが功を奏したらしい。イライラしている俺とにやにやと笑うスカイワープ、そしてメガトロン様の名前にフレンジーの中で少し信憑性が出てきたらしい。急に真面目な表情に変わって俺を見つめてきた。
「メガトロン様の御命令だって?」
「まあな。それでずっと探してるんだが、あいつリペア台にも来ねえじゃねぇか。それでお前なら知ってるんじゃねえかって聞きに来たんだ」
「そりゃあサウンドウェーブなら自分でリペアできるからな!」
フレンジーは自慢げにそう言い切った後、急に語勢を弱める。
「……でも、あいつの居場所なら俺だって知りたいよ。個人通信だって繋がらないんだ。ランブルたちとも連絡がとれないんだぜ?サウンドウェーブがたぶんイジェクトしてないんだ」
「通信が繋がらないんじゃなくて、てめぇがあまりに役に立たないんで通信拒否してるんじゃねえか?あのコウモリ野郎がそうそうおっ死ぬわけねえだろうが」
「何だって?もういっぺん言ってみろ!」
止めときゃいいのに、しょんぼりとしたフレンジーの肩をスカイワープがはたきながらからかいの言葉をかけた。それに対して、すぐさまスカイワープにフレンジーが食って掛かろうとする。
「おいおい、フレンジーをからかう癖を改めちゃどうだ。あの情報参謀が胸部にしまうほど信頼してるカセットロン部隊を嫌うわけねえだろうが」
自分よりでかいスカイワープに掴みかかろうとするフレンジーをすんでのところで止める。なんでこうもデストロンの奴らときたら、仲間内で面倒くせぇ争いごとを作るんだ。まあ俺が口出ししたところで、こいつらが接し方を変えるようなことは絶対ねえって事くらいは分かるが。フレンジーにしろ、しょぼくれてるよりは元気な方がいいんだが口は悪いし喧嘩っぱやくって……
そこでふと、いがみ合っているスカイワープとフレンジーの様子を見ながらある仮説にたどり着く。もしかして、今のはスカイワープなりの励ましだったのか?いや、まさかな。だとしたら、分かりにくすぎる。
「とにかく、お前さんはサウンドウェーブの居場所もコンドルたちの様子も分からねえってことだな?」
念を押すように尋ねると、フレンジーがはっきりと頭を縦に振る。とりあえず、フレンジー以外のカセットロンはイジェクトされておらず、誰もやっこさんの居場所は分からない。ここにいても、これ以上の情報は得られない。やはり手前の羽で探すしかねえってことらしい。俺は小さくため息をついた。
「もし何か分かったら、俺に無線飛ばしてくれ」
またフレンジーが頷いたのをセンサーの端に確認して、俺は飛び立った。
すぐ後方では、フレンジーとスカイワープのがなりあう声が聞こえてくる。嫌いなら離れてりゃあいいのに、スカイワープも馬鹿なのかなんのか。いや、嫌いだったら関わろうとしねえか。あいつの場合。
「ひょっとするってえと――いや、まさかな……」
ブレインに浮かんだ想像を音速で振り落とす。
とにかく、今はそれどころではない。これで振り出しに戻っちまったことは確かだった。まさかフレンジーすらサウンドウェーブの居場所を把握していないとは思いもよらなかったが、ランブルやコンドルたちも確かにセンサーに反応がない。
それにしても、俺の通信に応答しないのは分かるが、カセットロンからの個人通信にも繋がらないってのはどういうこととだ?
何かカセットロンにも教えたくないような状況に陥ってるのか、と嫌な予感が頭をよぎる。まさかとは思いたいが――やっこさんの顔やパニック状態を見ちまった今となっては、完全には否定出来ない。あいつの持っている情報にではなく、本体の方に色気を出すことなんて。
頭の中で、あの群青色の機体を思い浮かべるが、そういったことがあいつとまるっきり結びつかない。まずあのサウンドウェーブが興味を持ちそうにない。それに今までであいつが誰かと、なんて噂だとしても聞いたことがない。そのくせ、何故かその予感が完全に拭えない。
「あいつの顔は情報参謀でいるのには目立ちすぎる、か」
確かに、ああいう逃亡の仕方は失敗だったな。何を考えてんのか分からねえ顔も分からねえ陰険参謀ってことで、誰もあいつを組み敷こうなんざ思いもつかなかったんだ。意外にべっぴんさんだったのは悪いことじゃねえが、顔が良けりゃあそういう目に遭う確立は跳ね上がる。それに、最大の失敗はパニック状態を晒したことだ。あんな動揺した弱っちい姿を見せちゃいけねえ。報復云々差し引いても、デストロンの中には嗜虐や暴力でしか勃たねえような病気の輩もうじゃうじゃいる。つまり、サウンドウェーブが手を出される理由は考えれば考えるほど出てくるのだ。
妙に生々しい映像がブレインの演算上に現れ、俺は思わず頭を振った。
とにかく、今は命令のことだけ考えよう。
あいつ自体の戦闘能力は高いし損傷は少なかったように見えるが、レーザービームを頭部に真っ向から受けている。内部の回路には損傷が出ているかもしれない。フレンジーはあいつなら自分で修復できると言っていたが、もうリペアはしたのかわからない。今、襲われたらどうなるか。メガトロン様が憂いておられたのはこれもあるのか?あの様子だと、マスクやバイザーパーツを取り付けない限りは表に出てこないだろうに。
「そうか、パーツか」
倉庫区画。あそこなら余剰パーツもリペア用の設備も、旧型だがコンピューターもある。うろつく様な奴も居ねえ。身を潜めるのにも最適だ。だが、こういう時にずっと一箇所にと潜伏し続けるやつとも思えねえ。早く行かなくては。
思いつた瞬間、強く床を蹴り発つ。
俺の速さじゃ、すぐに着く。
探しても見つからないことからくる焦りと、先ほどからブレインに巣食い始めた妙な妄想が混ざり合い、言い表し難い感情がピークに達する。
「無事でいてくれよ――?」
その不安感が口を飛び出したとき、俺はサウンドウェーブを心配し始めている自分に気がついた。