君しか知らない(サン音) - 18/22

 負傷部分のほとんどがフェイスパーツや頭部ということもあって、俺は何も出来ずに見ていることしか出来ず、不安を持て余すことしか出来ない。サウンドウェーブはいつも通り、修理中は一言も喋らないから余計に辛くなる。
 特に赤いオプティックセンサーのしぼりは相変わらず常に不安定で、見ているこっちが落ち着かなくなる。
 俺を一度は拒否したものの、結局サウンドウェーブが自分の危機に呼んだのは俺だった訳だし、こうやって側に居ても何も言ってこない訳だ。俺を少しは容認したんじゃねえかとさっきまでは都合よくそう考えていたが、こいつがそこまで考えてるのかと疑い始めたら否定と肯定のループに嵌っちまった。
 利用されただけか?さっきは関係ねえと啖呵を切ったが、やはり何か返ってこないということにはさびしいものがある。

「その面を見せるのが嫌っていうのは分かるが、やっぱりオペ台に行った方がいいんじゃねえのか?」

 融通の利かない奴だから言っても聞かないと分かっているが、最後にもう一度だけは言ってみる。 しかし、サウンドウェーブは何を勘違いしたのか、最初の部分にだけ反応を示した。

「問題なのは、フェイスパーツが露出していることだけじゃない」
「は?」
「話しても意味のないことだ。お前に話すことではないとお前にはこの間伝えただろう」

 聞いたことのあるフレーズが今度はエフェクト無しで放たれる。違う文脈であるのに、サウンドウェーブが『この間伝えた』とぬかした。
 混乱する頭が説明を求めている。俺は馬鹿正直にサウンドウェーブにどういう意味かと問いかけた。

「もし記憶だけが理由だったなら、サイコプローブを全員に使用して記憶を抽出するだけだ。ということだ」

 サウンドウェーブはさも当たり前だというように言いきった。
 じゃあ、結果としてあの言葉は俺を拒否したわけではねえってことか!
 一気に自分の中で気持ちが上昇するのが分かる。しかし、喜び以上に与えられた衝撃は俺にその続きを急かした。

「お前さんがあの時に取り乱したのには別の理由があるっていうのか?」
「お前は気づいてたんじゃなかったのか?」

 質問を質問で返すサウンドウェーブの言葉がそれ肯定しているのだと分かり唖然とする。
 確かにそれは護衛の任務から解任された後から何度か考えたことはあった。
 サウンドウェーブがどんなに工作しても、俺たちがあいつの顔を見たことに変わりはないし、過去にたどり着かないでいる保障はない。それなら何故あんなに慌てふためいたのか。過去以外にも、理由が他にもあるんじゃないのか。
 これは俺にとって、俺がただ必要とされなくなった理由を認めたくないだけの想像でしかなかった。やはりサウンドウェーブに心の中は覗けないのかと妙に納得しつつも、メガトロン様にまで隠し通したという不敵さには驚くばかりだ。いや、あれほど盲目的に忠実なのだから騙していたわけじゃねえ。言わなかっただけで、誰にも嘘はついていない。
 俺が黙ると、サウンドウェーブも黙り、妙な沈黙が訪れる。
 こういう時にフォローを入れたほうがいいんだろうが、何も浮かばねえ。
 手持ち無沙汰にもぞもぞと動くと、修理を続ける中、サウンドウェーブが突然呟いた。

「また、借りができたな」
「借り?またそれか。別に借りもなにもねえだろ」

 急な発言に驚いて反射で打ち消しちまったが、こいつを狙っている今なら恩を売っとけば少しくらいはゴネられたか?
 頭をよぎった下卑た発想を振り落とす。利用しやすい位置に居たとはいえ、頼られた、ということは望みはある。それにさっきの呼び出しで完全に吹っ切れた俺がいた。

「しかし、今回は任務の下の行動ではない。何故だ?」

 助けた理由か――サウンドウェーブには直球で言わないと通じねえだろうな。

「あんたがほかのやつのものになっちまうのは癪だったしな」
「意図不明。解析不可能。説明、どうぞ」

 かなり素直に言ったはずなのに、サウンドウェーブに一蹴される。

「どうぞって言われてもなあ……」

 ここまで来ると、やや呆れてしまうがこいつの場合は分かっているのか分からないのかも一切分からねえ。
 あいかわらず何考えてるのかよくわかんねえ。今はマスクもバイザーもついていないのに、表情が読めない。最近はこいつの考えてることを分かってきていたつもりだったが、まだまだだったな。
 こういう時、俺もブレインスキャンなんてチートスキルがあればよかったのにと思う。

「お前だったら、俺にブレインスキャンをかければ済む話じゃねえか」

 そうカマをかけた後に、馬鹿なことを言ったと反省する。俺の気持ちを理解していたら、頭の良いこいつのことだ。こんな展開になる質問などふっかけない。
 するってえと、今までの俺の悩んでたことはもしかして全部杞憂じゃねえか?
 低い自己評価から来るネガティブな妄想と事実とのギャップに衝撃を受ける。それ以上に俺を唖然とさせたのは、自分がサウンドウェーブを好きだと言っても、サウンドウェーブとの信頼を完全には信じていなかったという事実だ。
 だってしょうがねえだろ、タイミングにしろ、俺の精神状況にしろ、サウンドウェーブの離れてからの態度にしろ。分かりかけていたと思っていたのに、この体たらくだ。俺にサウンドウェーブの頭の中や心ん中が覗ける訳がねえ。嫌われたと思うのが道理だろうが!
 墓穴を掘った俺の内心のあれこれとは対照的に、サウンドウェーブは僅かに首を振り、くそ真面目に思ってもいなかった返答した。

「……分からない。スキャンできないから、こうして直接聞いている」