「まだ原稿のチェックが終わってないだけから、もう帰って良いってよ」
自分でもびっくりするくらい上手い台詞が口から出てきた。それで納得出来たのか、別れの挨拶とともにあの足音がまたゆっくりと遠のいていく。
アーサーを見下ろすと、ぐったりとしていて、余韻に浸っているようだった。
「ごめんねアーサー、実は入ってすぐに鍵をしめてたんだよ」
目のふちからはぼろぼろと涙がこぼれていて、自分がやったことながらそれが痛ましかった。舌でなめ取ると、宙を泳いでいた緑色の瞳がこちらを向いた。
申し訳なく思いながら、汗ばんだ額にキスを落とす。
「ばかやろう」
涙をまだ止められないらしい。怒った顔さえ出来ないらしいが、たぶん、平常に戻ったら、今日のことをものすごく怒るのだろう。自分より、アーサーのほうが負担が大きいのだから仕方ないのだが。そう思いながらも、今度は自分の欲を吐き出すために動き出す。
今度は誰も来ない。絶頂を迎えるように顔から胸部までが赤く染めながら、また狂ったようにアーサーがよがりだした。