数分たたないうちにチェックが終わるような短い記事の確認に時間がかかってしまった。それもこれもあれも全部フランシスのせいなのだが。
「終わった、から、どけよ」
触れているときはしつこかったのに、離れるのはすぐだった。離れなかったら今までのお返しをしてやろうと心に決めていたのに呆気にとられる。後ろからずっと抱きしめられていたせいか、背中が自分だけの熱に戻るとなぜだか淋しい気持ちになる。
原稿を一応コピーしたものとUSBに移したものを受け渡すと、事務机から立ち上がって来客用のソファに疲れたように倒れ込む。
横目に見えるフランシスは隣に座って携帯電話で編集部に事務連絡のメールを打っている。これからすぐに、会社の方に戻るのだろう。
ここでようやく、さっきからのむず痒さが何だったのかが分かってしまう。ここでフランシスを呼び止めてしまったら、俺があいつを求めたことになる。すべてあいつの計画の通りにことが進んでいるのが悔しいが、俺には余裕がない。
黙って、そのメールを打ち込んでいる手に自分の手を重ねると、にやり笑ったフランシスがこちらを向く。
「なあに、坊ちゃん」
その唇に唇を合わせると、自分の手の下でフランシスが携帯を閉じた。
自分からのキスだったのに段々相手のペースに巻き込まれて、口の中にゆっくり確かめるように舌が入って来る。舌を絡めるのではなく、歯を一本一本なぞるようにして口内が犯される。
体制もひっくり返されて、俺はソファに沈んだ。