「前回は痛がるだけだったけど、」
今回は違うみたいだね。そう囁かれてどきりとしてしまう。体が慣れた、という表現は使いたくないが、たぶんつまりはそういうことだ。うまい具合にフランシスに改造もとい飼いなされているようにも考えられる。
前回はゆっくりと時間をかけて拡張した割に、気が狂うほどに痛かった。
「あれはお前が悪いんだからな!翌日まで痛すぎてマジで死ぬかと思った」
「ああ、だからお前、俺をこの部屋に入れてくれなかったのか。じゃあ今日のこれは坊ちゃん流の覚悟か何かって取っていいの?」
返事を飲み込めない。何で今日はこいつを招き入れてやったのだろう。そう言われるとなんとなくそんな気もする。訳が分からないが、聞きながらさっきのむず痒さが全身から感じられる。指がすんなり入ってしまったというショックと自分だけ服を脱がされているという羞恥があるのにも関わらずゾクゾクしてしまう。 何か喚いて誤魔化したかったが、唇がまたふさがれる。
おしゃべりの時間は終わりらしい。中で動いている指のせいで、よがり声を上げそうになる。フランシスはどこが気持ち良いのか分かっているらしい。腰から二の腕まで何かが上って来る。自分の頬を触ってみると、じんわり熱く、汗をかいている。体勢を動かすたびに革張りのソファに肌が張り付いて擦れた音を立ててしまう。拡げられる快感と不規則に与えられるキスでこもる声で息が苦しい。
「フランシ、ス、もう……」
止めてくれと足を閉じると、指が引き抜かれた。快感の名残がさっとなくなって脱力感に見舞われる。何かが来ていたのに、自分で途中で止めてしまったのが辛い。
早くあれを迎えさせて欲しい。
「フランシス、はやく」
立てない。動けない。あと少しで、だったのに。 フランシスに懇願すると、フランシスが焦ったように笑った。
「ごめん、お兄さん、余裕ないかも。優しく出来ないと思うけど、ごめんね」
声が出ないように、自分で口の中に指を入れて喉を塞ぐ。
フランシスに太ももをぐっと持ち上げられて上から押さえつけられる。そのまま上からぐりぐりと押し付けられて、体の中に異物が入ってきた。
「んんんんっ!!」
痛い。指で塞いでも声が漏れた。肺がぎゅっと縮まって、吐き気に襲われる。急に貫かれたせいで鋭い痛みが襲うが、前回とは違って、自分が急に大きくよがっても行為が止まらなかった。痛い。さっきまで来ていた刺激とは全然違う、受容器の限界をかるく超えていた。神経を介して伝達する感じたことのない興奮が脳を揺らす。
フランシスに前を掴まれて、男としての快感もあとを追った。
「死ぬ、しんじゃう、しん、じゃう!」
揺さぶられながら泣き叫ぶ。すると、フランシスの動きがぴたり止まった。
さっきと何かが違う。違和感に耳を澄ますと、下の階の店から聞こえていた音楽が止まっている。時計を見ると、店を閉める時間になっていた。
急に静かになった部屋で、心臓がバクバクと鳴りだしたのが分かる。脳内に映し出された最悪の状況へのシナリオに向かって、時が刻々と動いていく。
誰かが、店の外の鉄階段を登ってくる音がする。こちらに近づいてくる。
誰かがこちらにやって来るのに、それを知っていて、先ほどの行為が始まる。自分の上に覆いかぶさっているフランシスを見ながら、俺は声にならない悲鳴を上げた。
逃げ出そうとしても、始まってからでは逃げ出せられない。俺の喉からはまた、嬌声が漏れ出した。
「アーサー、声出したら外に聞こえちゃうよ」
そう囁くフランシスに、お前のせいだろとも、やめろとも言葉を発することが出来ない。
快感と外の足音が近づいてくる。
近くに、すぐそばに――――部屋のドアがノックされたのと、フランシスが前を掴んでいた手を離したのは同時だった。
ぞくぞくとむず痒かったものが、今までとは違う速さで頭まで駆け上る。
あまりのことに、声が出なかった。
訳が分からなくなる現実の片隅で、ドアは開けられることなく、ただドアノブがガチャガチャと音を立てていた。