SS詰め(仏英) - 13/14

怪盗×探偵(未完)

はっと目を覚ましたのと、歩き回るような靴音を聞いたのは同時だった。
今何時なのかも分からないほどの闇の中に耳を澄ませる。今の音は、夢のなかの音だったのか。それとも探偵などという難儀なことをしていることに起因する職業病だろうか。
しかし、少しの静けさの後に隣の部屋を徘徊するきしきしと乾いた音が今度ははっきり聞こえ、俺は寝ぼけた頭をむりやり叩き起こした。枕もとのエンドテーブルの引き出しから拳銃を引き抜く。ドア側の壁の物陰に息を詰めて潜むと、その誰かの足音が廊下に移動し、こちらに近づいてくるのが分かった。

泥棒か。 盗まれるようなものはまったく置いてないのだがと俺は少し呆れた。
携帯用ランプの灯りだろうか、ゆらりとした小さな光がゆっくりとドアが開くにつれて寝室の中を射る。ドアを開けたまま、その泥棒は慎重に部屋の中心へと歩み寄った。
それが合図であるように、俺は拳銃を男に向けて叫んだ。

「手を上げて床に伏せろ!」

男がひどくたじろいだのが分かった。気の小さいちゃちなこそ泥、もしくは初犯といったところだろう。

「野郎のところに忍び込むなんざ運のねぇ奴だな。俺からの忠告だ……退路は確保しておくんだったな」

勝利宣言を言い放ち、銃口は向けたまま、背中でドアを閉める。観念したのか、泥棒が命令通りに床に屈むような動きを見せた。俺は勝ったと確信した。

が、一瞬のその安堵を覚えた刹那、泥棒は方へと尋常ではない速さで移動し、ガラスを破って外へと飛んだ。

「嘘だろ!?」

急いでガラスの飛び散った窓に走り寄ると、点々と続くガス灯のぼんやりとした光の下に、走り去ろうとする姿が見えた。逃げられてしまう。そうとっさに思った俺は手に持った拳銃でその後ろ姿を撃った。

拳銃をぶっ放してすぐさまに外に飛び出すも、あの泥棒の姿は何処にも見つからない。夜の静寂を壊した発砲音とともに遠くの光の下で男がよろめく姿を確かに見たはずなのに。最後に泥棒を視界で捕らえた街灯まで走り寄ると、そこには銃痕はないが、あれのものと思われる血がこぼれていた。

「仕留め損じたか」

銃の腕が落ちたのは少しショックで腑に落ちないが、仕留め損じたことが面倒を呼ぶことに気づいて俺はため息をついた。窓の修理代は誰が出すというのか。こんな深夜に銃を撃ったことによる近隣住民への謝罪。そしてこういう時の泥棒は顔を見られたかもしれない!と必ずもう一度はやってくるのだ。俺に気づかれな いように今回よりもずっと慎重に、そして何かの銃器や毒物を持って。
これからしばらくはゆっくりできないだろう。

「……しょうがない。寝るか」

今日はもう来ないだろうということは間違いがないので、俺はこれからに備えて今夜はもう少しだけに狭まった睡眠時間を満喫することにした。冷たくなってしまったシーツの海に体を預けると、まどろみはすぐにやってきた。

しかし、ゆるり眠りにおちた俺はまだこの夜の出来事がこの後の俺の人生を大きく変える、いいや狂わすような人物と関係を持つことになるきっかけになるということには微塵も気づいていなかったし、気づこうとする努力さえしようとしていなかった。それにもし気づいていたとしても、この夜の下手人とあんな形で出 会うことになっていては、俺にとっては不可避な運命の一部だったと言うことには変わりはないだろう。

2011/3/20