メガトロン様の作戦の資材集めの段階が終わり、装置を実際に作っていく段階に入ると今までと同じように古参だけの合同作業になることが増えた。つまり、サウンドウェーブとかち合う機会が増えたということになるのだが、護衛以前と同じような態度での『古参だけの合同作業』でしかない。
古参、と簡単に言っても、俺たちジェットロンとあいつのカセットロン部隊は別につるんでいたわけじゃないし、もともと古株だからこの組み合わせになっているわけでもないと最近では思うようになった。
デストロンの軍事行動はメガトロン様の指揮の下、ほとんど部隊ごとに別起動だ。その中で、この二部隊のリーダーがどちらも参謀クラスで、技術が高いサウンドウェーブと元々は科学者というシンクタンク出身のスタースクリームによって束ねられている。メガトロン様のすぐ下で、作業を委ねやすいからっていうのもあるのかもしれない。
加えて、忠誠心の厚いサウンドウェーブと野心的なスタースクリームを一緒にしておくことで、メガトロン様の監視外のフォローにもなる。最近は新しい部隊も増えたし、メガトロン様もそいつらをまとめるので手一杯なのだろう。あの小うるさい虫どもが必要な作業の時には、流石にこちらに目をかけてはいるが。
そういう意味でも、ちょうど良い位置にいた俺が護衛に選ばれたんだろう。やっこさんと一緒に居てもおかしくなく、他の奴らよりは気心が知れてる。
まあ、俺の勝手な想像でしかないけどよ。
もしあの時、スタースクリームやスカイワープが逃げていなかったら、あいつらならどうなっていたのだろうか。と俺はたまに考えてみる。
今頃、いつものように『あの陰険参謀と離れられてせいせいしたぜ』と軽口を叩いただろうか。意外と、スタースクリームなんかはああは言ってもスカイワープほどカセットロンたちにつっかからない。俺以上にあいつらともうまくやっていたかもな。
カセットロンとは護衛の時に話すようになってからは以前よりつるむようになったが、フレンジーもランブルも作業のときはサウンドウェーブに倣うし、俺もスタースクリームやスカイワープたちの方に倣う。それに、一時休止になっていたあの時のように世話話をするほど暇じゃねえ。
相変わらずスカイワープとフレンジーたちはくっついちゃあ離れちゃあ喧嘩ばかりしているが、俺のサウンドウェーブとの関係も相変わらずだった。
見るから気になっちまうし、気になるから見ちまう。
だから今ではサウンドウェーブのほうを見ないようにはしている。気にしていたら、どうせまたスタースクリームやスカイワープにからかわれるだけだろうし、あっちが我関せずにいるなら、こちらもそうしていればいい。
それにしても、今まで護衛で守ればいいとだけ考えていたせいで何とも思わなかったが、サウンドウェーブが隠したかったのは本当に己の素性だけだったのか?
どうして自分があいつのそばに居たのかという理由を考えていると、そんな疑問がわいてくる。やっこさんは平気な様子で作戦の指揮の下で働いている。が、『周辺クリア』されたからという理由だけで片付かない腑に落ちない部分が俺の中で大きくなってきていた。
サウンドウェーブを襲った奴への報復の噂と作戦の指揮下でサウンドウェーブの周りに常に誰かがいるせいでおくびにも出さないが、それはみんながあいつの顔を忘れたことと同じ意味にはならない。
サウンドウェーブが今まであいつの情報網やら能力やらで隠蔽済みだとして、半永久的に生きる俺たちがあいつの過去にたどり着かないでいる保障はないのだ。もし、その可能性をすでにあいつが全て摘み取っていたとしたら、何故あの時にあんなに慌てふためいたのだろう。計算高くていつも飄々としているあいつが取り乱す理由が他にあるんじゃないのかと思ってしまう。
全部演技だったと考えてしまったほうが、今の状況を思うと心がラクになるからか。そういう想像が頭を離れない。サウンドウェーブに聞いてみたい。
――ったく、何で俺はこんなことばかり考えてるってんだ!
俺がこんがらがってきた思考を押し出すようにため息をつくと、スカイワープは同調してくるかのように、愚痴をこぼした。
「ったく、チビ共と作業なんてやってられるかよってんだ」
さっきのため息は作業に対する不満だと思ったらしい。
別に勘違いされてるなら、そのままでいい。またサウンドウェーブとのことについて突っかかられても面倒だ。
訂正することもなく、適当に返してやる。
そのサウンドウェーブ本人が傍に居るしな。
「またそれか。まあそう言うなよ」
そう言いながらふとサウンドウェーブの方を盗み見ると、サウンドウェーブがこちらを見ていたような気がした。バイザーのせいであいつが何を見ているのかなんて誰にも分からないが、なんとなくそう感じる。サウンドウェーブのことを直前まで考えていたせいか、あいつが俺にブレインスキャンしようとしていたようにも思える。
俺のことをずっとあれから避けてたみてえなのに、か?
じっと見つめていると、サウンドウェーブはスペースを出て行ってしまう。
今なら話せるかもしれねえ。
俺はその背を追いかけ、声をかけた。
「サウンドウェーブ」
「何ダ?」
無視されるかと思った俺の心配とは裏腹に、サウンドウェーブはくるりとこちらを振り返った。直接話すのは、何ソーラーサイクルかぶりだ。
「あんた、あれから何も問題はないか?」
「アア、何ニモナイ」
てっきり話しかけても拒否されるとばかり思っていたが……オウム返しの会話ではあるけれど、普通に話せる。これなら、ぐるぐるとこいつの安否やらを気にしている間に、もっと早く話しかけていればよかった。
「ま、それなら良いけどよ」
久しぶりに話すのがなんとなく照れくさく、思わず上から物を言ってしまう。久しぶりに話すのだから、もっと普通に話すべきなのにとは分かっているのだが。
「本当に何も無いんだな?」
「何モ問題ハナイ」
念を押すように聞くと、さらりとサウンドウェーブは返してくる。
何もない事は、いいことだ。しかし、なんとなくがっかりしている俺がいた。
――がっかり?
無意識に選んだ言葉に驚く。しかし、ずっともやもやと抱えていた腑に落ちない部分を尋ねずにはいられなかった。
「だけどよ。何もないし何も言ってこないだけで、みんなお前さんの素顔を忘れたってわけじゃないんだろ?」
言いながら、自分でも言葉に意味もなく険を含んでいるのが分かった。さっきからの自分の態度に驚く。感じ、悪い。そんな俺に対してか、サウンドウェーブもつっけんどんに返してきた。
「ソンナコトハ、ドウデモ良イコトダ」
「は?あんた、そりゃまた襲われてもいいってことか?」
「俺ハソウハ言ッテイナイ」
少し苛立つのが分かった。それと同時にブレインの回路にスカイワープとの会話が浮かぶ。
『まあ、お前が分かりやすくイラつくなんて珍しいから別に構いやしねえよ。なんたってあの根暗野郎にさえ情を持っちまうようなお人よしだからな』
「問題ナノハ――」
違う。そうじゃない。
「そんなことねえ」
スカイワープに返すはずだった言葉を、思わずサウンドウェーブに投げつける。やっこさんの言葉を遮る俺の急な否定に、サウンドウェーブも驚いたようだった。言葉が一瞬途切れる。
「イヤ、何デモ――」
「何でもないってことはねえだろうがよ」
口が勝手に勢いに任せて追い立てるように言葉を継ぐ。
流石にこれにはサウンドウェーブもむかつきを覚えたらしい。いつも以上に平坦な声で
「アッタトシテモ、オ前ニ話スコトデハナイ」
とだけ告げて歩き去った。
その背中が遠くに消えるのを見届けたところで、やっとブレインの処理が追っついてくる。それと同時に自己嫌悪が湧き上がって来た。
あいつの移動速度は遅いから、俺が追いかけようとすれば、すぐに追いつく。しかし、俺はこれ以上話そうという気分にはならなかった。
――ああ、そうだよ、スカイワープ。確かに、俺はイラついてる。
やるせない苛立ちがなんなのか分からず、俺は全速力で飛ぶために、基地を飛び出した。