君しか知らない(サン音) - 8/22

 俺の護衛は、サウンドウェーブの言う『周辺クリア』状態まで続くことになった。とはいえ、それがどのレベルのものなのか、まったく分からない。
 俺がサウンドウェーブを護衛していることを知っているのはメガトロン様と参謀達以下、スカイワープとカセットロンたち。それ以外には箝口令がしかれている。そのほうが護衛するには都合がいいし、軍団の中では事なかれでいたい俺の性格にも合っている。
 最初はそこまで襲われる頻度なんて少ないとは思っていたが……

「本当に、敵が多いこって」

 いや、相当熱心な『ファン』がごろごろいやがるのか?
 サウンドウェーブの階級がかなり高いということは、技術力や戦術知識以上に火力だってあるってこと、こいつらちゃんと分かってるんだろうな?一応は不意打ちが多いが、あいつを破壊したり押し倒していいようにしたりするにはあまりに無謀だ。
 床に伸びた機体から情報を抜くサンウドウェーブを遠目に、こいつだけは敵に回したくないと思いつつも、もう何度か見た光景に同情する気も起こらない。
 最初はリペア台送り以上の仕置に驚きもしたが、サウンドウェーブにしてみりゃあ、自分を利用しようとしたり襲おうとしたりしたやつに対して報復するのは道理にかなっている行為だ。それに、襲われても無反応でやっぱり感情の集積回路が壊れてんのかと思ったサウンドウェーブが、顔には出さないものの、ひどく怒っているらしいということが、だんだんと分かってきた。それに気がついてからはこれに関しては何も言わないことにしている。
 傍から見ていると、無表情・無関心・無感動の三無い主義にしか見えないが、身近にいるとそうでもないとも考えが変わってきた。感情の機微はあまり出さないが、たまに慌てたり、馬鹿にしたように笑ったり、今のように怒ったりする。そして、時にはこの間のようにご機嫌になったりもする。
 ……意外とこいつ、ちゃんと付き合ってみれば面白いやつなんじゃないか?
 俺のぐちゃぐちゃとした考察をよそに、しゃがみ込んで襲撃してきた奴に『何か』やっているサウンドウェーブがおもむろに立ち上がった。
 俺の出番らしいと分かり、その背に近づく。

「終わったか?」
「マアナ」

 コードをまとめながら振り返ったサウンドウェーブは、今はなかなかにご機嫌に見える。なにか都合の良い情報でも手に入ったらしい。

「お疲れさん」

 情報参謀殿の『情報収集』が終わった後は、完全に伸びている機体をせめてもの情けで警備ドローンのパトロールの気がつく場所まで引きずって行ってやる。
 サウンドウェーブはいつも放っておけば良いとでも言うように見てくるが、ここまでやって、俺の中で任務は完了する。ある意味、正当防衛とメガトロン様のご命令とはいえ、俺はこいつらにとっての加害者でもある。向こうは急襲したのが俺だと気がつかずとも、顔を見合わせた時にこっちが気まずくなる。お人好しというよりは、完全なる自己満足だ。
 それに、三下だろうとクズ野郎だろうと一応はデストロン軍団の構成員。俺はこのデストロンの一員という点に関してはニュートラルだ。サウンドウェーブからの突き刺さる視線も痛いが、放置しておくわけにもいかない。これで何かあったら目覚めが悪い。
 そういえば、今までの挑戦者から報復がないのは、箝口令とできるだけ気づかれないようにやってるのもあったが、裏でサウンドウェーブが上手くやってるのかもしれない。こいつに関して言えば情報を抜いたあとに、何か小細工しておくくらいは考えられなくもない。
 とにかく、こんな風に、俺が不届きものをスペースから放り出す一部始終を非難するようにじっと見つめて、それが終われば解散になる。
 しかし、サウンドウェーブの視線が、今日だけはその後も外されない。バイザーをつけているのだから、やっこさんがこちらを見つめているかどうかなんてわからないのだが、さっきからこちらの動きに合わせて微妙に頭部が動くからには間違いない。

「なんだ?人の頭をそんなにしげしげ見て」

 耐え切れずに向き直ると、すぐに横を向かれる。
 こういう行動は、何をしてえんだかいつまでたってもさっぱりわからねえ。
 じっと見つめ返すと、さすがのサウンドウェーブも諦めたように切り出した。

「……オ前ハ、スキャンブロックヲ掛ケルコトガ出来ルノカ?」
「はあ?何言ってるんだ?」

 ついにヒューズでも飛んだか?
 予想外の言葉に、質問を質問で返す。すると、サウンドウェーブは重ねて尋ねてきた。

「ブレインサーキットニ、ブロックヲ掛ケルコトガ出来ルノカト聞イテイル」

 最初はジョークかと思ったが、まじまじと尋ねてくるサウンドウェーブの様子から推測するに、マジで聞いてきているらしい。

「そんなこと出来る奴いんのかよ。もしそんなことが俺に出来てたら、最初からかけてるぜ。んで、あんたの性格上、信用におけなかったら俺に聞く前に俺になんかアクション取るだろうが」

 珍しくこちらに興味を持ったように見えたら急に何を言うんだ、こいつは。
 護衛として一緒に行動していると、高度な情報網やブレインスキャンを持つサウンドウェーブは自分の『知らない』ものへの恐怖が大きいことが分かってきた。
 何事も自分の情報統制下におきたがる。
 だいたいのデストロンのやつらは、サイバトロンを倒すことだとかトップの座だとか力を得ることだか、ある特定のことに執着する奴が多い。それがサウンドウェーブの場合は情報ってわけだ。
 また俺にブレインスキャンしていやがったのか。
 こいつのスキャンの能力範囲だとか持続時間は知らないが、サウンドウェーブでもエラーを出すことがあるのかと考えると、そのエラー対象が俺であることが妙に感慨深い。

「ソウカ。ナラ問題無イ」

 あんたはそう言いつつ問題に思ってるんだろうがよ。
 ただ、そのサウンドウェーブが答えの分かりきった質問を俺に投げかけるまでさせたエラーというものが気にならんでもない。実はエラーなんぞはなくて、別の理由があって俺を観察していただけかもれしれない。

「まあ、あんたがいつどこで俺にブレインスキャンしようが関係はないけどよ。それでもまじまじと観察されるのは慣れてねえんだよ。さっきは俺の顔に見惚れちまったのかと思っちまったぜ」

 冗談交じりに牽制するも、サウンドウェーブは冗談を冗談と理解できなかったらしい。

「オ前ハ何ヲ言ッテルンダ?」

 不愉快そうな空気をにじませる。
 やっぱりこいつ、よくわかんねえやつだ。

「……なんでもねえよ」

 それ以上は詮索していく気分にならなった。
 俺も護衛という任務があるからこそ、近くにいてこうやって必然的に関心を寄せてしまう。サウンドウェーブにしてもそうなのだろう。
 思えばこの手の奴とは今までつるんだこともない。どうせ事務的な態度しか取れないだろうと思っていた時は護衛もつまらなかったが、他の奴らと全く異なっていながら同じようなところもある考えの読めない機体を観察しているのも悪くねえ。
 とりあえず俺が今のところ学んだのは、サウンドウェーブには冗談は通じないってことくらいなのだが。