君しか知らない(サン音) - 9/22

 関心を持ち始めたとは言っても、俺がサウンドウェーブに対して何か特別にアクションをとることはない。そこまで何か特別じっくりと話さなくてはいけないという内容もないから当たり前だ。護衛中はタメ口が許されているようだが、階級が向こうの方が上なことにはたわいない世話ばなしでさえしにくい。
 それでも独り言のように声をかけるうち、さっきのように少しは口を聞いてくれるようになった。
 呼び出すときは突然な割に、いつも去り際はあっさりとしている。

「30サイクル後二、次ノ作業デマタ合流スル」

 言うが早いか、サウンドウェーブはさっさと歩き去る。その後ろ姿に何か声をかけようかとも思ったが特に話題も無く、俺は見送るしかない。

「次の作業ねえ……」

 ということは、次の作業はまたカセットロンたちとの合同作業ってことか。
 つるんだことがない、と言えばカセットロンの連中ともそうだった。よく古参として同じ作業に割り当てられることは多かったが、じっくりと話したことは無かった。
 セイバートロン星でも、純粋な飛行タイプの機体とつるんでいる方が多かったしな。俺が奴らに何か話しかけることなんてサウンドウェーブと同じく連絡やら事務的なことばかりだった。
 強いて言えば、カセットロンと作業すると、確実にスカイワープとランブルかフレンジーが言い争いになる。あいつらは、くっついちゃあ離れちゃあ喧嘩する。話すとすれば、その仲裁くらいのもんだ。
 箝口令がしかれているくらいなのだから、サウンドウェーブの側にずっとつきっきりでいるわけにもいかない。その点、カセットロンと俺らジェットロンとの作業が増えた。おそらくはメガトロン様とサウンドウェーブが指示しているんだろう。連中との作業なら、だいたいは近くにやっこさんが居ても不思議じゃないし、もしサウンドウェーブに緊急で呼び出されて俺が抜けても何の問題もない。何食わぬ顔でまた加われる。……そんな事態になったことはまだ無いが。
 この間の新兵器がサウンドウェーブの顔面を割って失敗に終わってからというもの、まだサウンドウェーブたち上官は新しい何かを開発する気にはならないらしい。そのせいか最近の与えられる作業は単純かつ単調なもので、無駄口を叩く暇さえあった。
 一緒にいて暇を持て余していりゃあ、世話話くらいはする。俺には別にスカイワープのように自分から突っかかっていくような趣味もないし、サウンドウェーブに比べれば、カセットロンたちには得体の知れねえところもない。階級も同じくらいで上下関係を気にする必用もない。フレンジーたちは突っかかったような喋り方をするが、口数は多いことには会話に苦労しない。それに今は『サウンドウェーブ』という共通の話題すらある。
 だから、なにか一緒にすることがあれば話すようになるのには時間がかからなかった。

「よう、またお前らと一緒だな」
「サンダークラッカー」

 作業していたランブルになにげなく話しかける。
 護衛を始めたばかりの頃は、サウンドウェーブの予定を確認するのにもいちいち警戒されていたが、今じゃ無駄口を叩く程度には馴染んでいる。純粋な飛行タイプじゃない奴とこんな関係になるとは少し前までは考えもしなかった。その考えが少し後ろめたくて、余計に自分から話しかけちまうせいか。
 ふと見ると、わざわざ時間差で遅れて作業に入ってきたサウンドウェーブはいまだご機嫌のようだ。

「今日はあいつ、やけに機嫌がいいんだな」

 ついそう漏らすと、ランブルが驚いたようにこちらに振り向いた。

「サンダークラッカーにも分かるのか?最近、サウンドウェーブはすげえご機嫌だぜ」
「へえ」

 ストレスはあるけど発散対象は同時に手に入るからか、とは口が滑っても言えない。多分、俺が護衛として側でどんな奴をはっ倒してるかなんてあのサウンドウェーブが同胞に漏らすはずがない。
 カセットロン部隊のやつらは、自らの直属の上官であるサウンドウェーブをやたら立てようとする。この言葉が部下としてふさわしいかは分からないが、やや『過保護』気味だと言ってもいい。フレンジーやランブルたちがサウンドウェーブの今の状態を知ったら、四六時中周りを取り囲むんじゃないかとさえ思われる。コンドルやジャガーでさえもあいつの側を離れなくなるだろうことは想像に難くない。いや、ジャガーあたりはこの状況を把握してるかもしれねえが、今まで通りに行動をしているところを見る限り、たとえ知っていてもサウンドウェーブがそれを許していねえのか。こいつらも気づいてても、気づかないフリをしてんのか。
 最近、カセットロンがイジェクトされっぱなしで任務以外ではメガトロン様の周りに固まってるところを考えると、やっこさんもやっぱり同胞を巻き込みたくねえんだろう。
 俺がサウンドウェーブだったら、スタースクリームやスカイワープにそんな措置をとるだろうか? いや、絶対しねえ。あいつらはあいつらでなんとか出来る。スタースクリームだって普段はあんなんだが飛行能力だって高いし、ナルビームの火力は侮れない。スカイワープも同じだ。
 結局、サウンドウェーブもサウンドウェーブでこいつらに対して『過保護』ってことだな。
 あいつの過去だとかこいつらと何があってこうなってるのかには微塵もと言ったら嘘にはなるが、俺は興味が無い。が、こういう関係性ってのは嫌いじゃない。
 最凶の武器は恐怖だっていうのが俺のイデオロギーだ。それに、戦いに理想や勝ち得たいなにやらを持っていない普通の俺がメガトロン様に付き従うのは、兵士としての惰性と恐怖による支配に他ならない。が、恐怖による服従は組織が大規模になるほど意外と効率が悪い。恐怖を生む強い力ってのは周りを押さえつけても、隙を見せたら裏切られる。飛び抜けて強い力の監視が行き届かなくなれば、大抵はみんな手前勝手に好きなことを始める。主義主張があるやつなら押さえ込むのには大変だし、逆にそういうものがない命令をなんとなく考えないでこなしているようなやつこそ直接命令できないところにいれば信用に置きにくい。野心がある奴にとっては恐怖の対象は邪魔なたんこぶで、いつもどうにか恐怖から逃れようとする。
 過去に何があったにせよ、そういうのが無い繋がりってのは悪くない。

「サウンドウェーブがあんなに機嫌がいいことなんて珍しいんだからな?俺らだって嬉しいぜ!」

 ランブルが嬉しそうに笑いながらそう言った。

「ありゃあそんなに珍しいのかよ……」

 珍しい、と言われたらなんとなく気づけたことに悪い気はしない。護衛をしてなかったら絶対に気がつきもしなかっただろう。まず、やっこさんも三無主義の感情回路半壊野郎のままだったな。
 サウンドウェーブのことを、付き合ってみれば意外と面白いやつなんじゃないかと思いもしなかった。横で作業するカセットロンたちともこんなふうに話すこともなかった。だから。

「悪くねえ」

 サウンドウェーブを見ながら、なんとなく、そう思った。