作業とやらは今日もすぐに終わった。
カセットロンとの作業は名目だけで、護衛任務のカモフラージュとしての本当なら俺が呼ばれるまでもねえ軽作業だ。よく考えりゃあ、サウンドウェーブがまだ『周辺クリア』ではない今、メガトロン様も大きな作戦企画を立てられるわけじゃないから当たり前か。
早く周りが一応でも落ち着けば、いつものように大勢を動員するような作業が始められるんだろうが。
そしてそんな大勢で何か作業をするとなれば、やっこさんはずっと働き詰めで一人になるタイミングなんぞなくなる。周りにいつも他の機体がいれば、どうこうしようって輩もいなくなって晴れて俺はお役御免ってわけだ。
それなら初めから大々的に作戦を始めちゃどうだとも考えたんだが、サウンドウェーブとしてはこうやって泳がせて不穏分子と『ファン』を潰しときたいんだろう。サウンドウェーブが俺と返り討ちにしてリペア台送りにした機体は数知れねえ。サウンドウェーブを襲えばこうなるって脅威を周りに示すってことも狙いかもしれねえな。
やっこさんがああもご機嫌なことを思うと、他にもなんか意味があるんだろうが。戦術的なものなら俺にはわからねえし、興味もねえ。頭のいいやつの考えることに首を突っ込んでも俺なんかが理解できるかも分からねえしな。
まあ、この護衛の任務が面倒くさくない、不本意ではないとは言い切れないが、任務の範疇であるからには何があっても組織の中で保護される。俺になにか特別にしわ寄せが来るわけでもない。
不満をしいて言うなら、同じジェットロンの奴らにからかわれることが増えただけだった。
「最近、お前、カセットのやつらとつるみすぎじゃねえか?」
いつもたまり場になっているスペースに入ると、つっかかるようにスカイワープが俺に言葉を投げかけてきた。
またかよ、と口に出すのも面倒くさい。
「馬鹿、スカイワープ。ありゃあ箝口令のカモフラージュだろ」
スタースクリームが間に割って入ってくる。こいつらのタチが悪いところは、全部分かっている上で俺に突っかかってくるところだ。
「俺が気に入らねえのはジェットロンのお前が出るまでもねえ作業にカセットロンどもとやってることだ。カモフラージュにしたってお前一人だけ混ざってりゃあ、あの情報参謀やカセットロンの使いっぱしりみてえだろうがよ」
俺がシカトこいていれば、スタースクリームとスカイワープは勝手に話をし始める。
「こいつ、あの陰険参謀に弱みでも握られてんじゃねえだろうな?」
「それにしたって、俺らジェットロンがあんなやつにへこへこする必要はねえんだよ。一回、つけあがる前に押さえつけりゃあいい話じゃねえか。俺ならそうするぜ」
沈黙は肯定と取ったらしい。矢継ぎ早にスタースクリームとスカイワープに咎められる。不満やら感想なら紙に書いてメガトロン様かサウンドウェーブにでも提出して欲しい。こいつら、誰の命令で俺が護衛やってるか分ってんのか?
サウンドウェーブやらカセットロンの連中をちょっと見知ったからには言えねえ言葉ばかり簡単に言ってくれるが、元はと言えばお前らが俺を見捨てて逃げたからだろうが。
スタースクリームはサウンドウェーブに、スカイワープはフレンジーやランブル達に普段から反発し合っているから思うところがあるのは仕方ない。
俺にも飛べない奴以外は馬鹿にしてた節があったから、人のことは言えねえがな。
「お前、あの陰険参謀に懐柔されちまったんじゃねえだろうな?」
スカイワープが不審そうに尋ねてくる。この質問も何度目だ。
つるんでみりゃあ、なかなか面白え連中だって分かっただけだ。いつ終わるのかも分からねえ任務のあいだ中ずっとお互いに得体がしれねえと警戒しているのもスパークに悪い。だから、最初はお互いに均衡点をとっているというか妥協しているだけだったが……ちょっと馴染んじまっただけだ。懐柔なんかじゃねえ。
「そういや、そうだ。お前はあのとき、奴の顔を拝んじまった一人だったな。他の奴らみてえに、惚れちまったか?」
黙って聞いていたら、好き勝手な想像と共にスタースクリームが神妙な顔をして詰め寄ってきた。
演算上に無かった質問に流石の俺も驚く。
「まさか! ありえねえよ」
自分の中に無かったサウンドウェーブと俺という組み合わせが回路上に浮上し、すぐに打ち消す。
そんなこと考えも――こちとら任務だぜ?
「男型だからとか気にするたぐいだったっけか?」
スカイワープがあけすけに聞いてきた。が、問題はそこじゃない。
「そういうわけじゃねえけどよ!」
馬鹿言え。俺はメガトロン様のご命令に従って、やっこさんを護衛してるだけだ。あいつに色気出してみろ、俺も情報抜き取られてついでに何されたもんか分からねえ。こいつら相手があの『サウンドウェーブ』ってことを完全に忘れてやがる。
「馬鹿言え! ちょっとでもサウンドウェーブの前でそんな素振りみろ。俺は今頃、おまえらの前に居られねえよ!」
「何でぇ、そりゃあ?」
つい必死な声を出してしまったらしい。スカイワープが興味を引かれたらしく、続きを促した。
――しまった。
任務が終わるまでは守秘義務としてあいつの行動についての言及は控えようと思っていたが、言い出してしまった俺の負けだ。
「……あいつにはブレインスキャンがあるだろうが。お前らは間近でサウンドウェーブの仕返しを見てないからそんな想像ができるんだよ。自分を襲った奴が無防備に機能停止してるんだぜ?サウンドウェーブがやることっつったら……分かるだろ?」
二機のこちらに迫る動き完全にがぴたりと止まる。やっと想像が行き着いたか。お前らが俺と絡ませて遊んでんのは、あの『サウンドウェーブ』だぜ?
目の前で、ふたりが顔を見合わせた。よく考えりゃあ分かるだろ。それに、あいつのやり方ならお前らの方が俺よりはるかに詳しい実体験者だろうが。
「とにかく、ありえねえってことは分かったろ?仕方ねえだろう。あいつらと一緒の作業の命令が出されんだから。それに、今んところはサウンドウェーブに脅迫されたこともされそうなこともやってねえよ」
そう言い切ると、スタースクリームもスカイワープもやっと納得したように見えた。
それでも、『惚れちまったか?』。この質問には流石にヒューズがぶっ飛ぶかと思った。
俺がサウンドウェーブにほれるなんてことは。万が一にでもねえ。もし仮に惚れてたとしたら、やっこさんにブレインスキャンでとっくにバレてどこかドローンの目につかないところでスクラップにされてたはずだ。今日だって、俺にブレインスキャンをブロックできるかなんて聞いてきやがった相手だぞ。いつ頭ん中覗かれてんのかも分かんねえ。俺が傍から見て好き勝手観察してるのもバレてるんだろうな。
ちくしょう、サウンドウェーブと俺という構図なんか今の今まで微塵も考えて無かったのに。次にあいつに会った時に、ふっとでも今の質問を思い出してみろ。どうなるか分かったもんじゃねえ。意識するなと念じると、余計に意識しちまう。これからあいつからの個人通信にビビる日々が始まるのか。冗談じゃねえぜ。
俺は思わず、ため息をついた。