理非知らず(サン音) - 5/6

「さっきまでの余裕はどうしたんだ?」
「うるさい、だま――ヒ、アッ、やめ、ろ……」

 指でこするたびにどんどん上がる機熱のせいで、流し込んでしまった水がぬるくなっている。サウンドウェーブの音声に明らかに熱を孕んだノイズが漏れ出す。
 もっと聞きたい。こういう部分を知りたい。
 内壁の向こうの部分に当たるようにぐりぐりと指で刺激してみると、高ピッチの嬌声が響いた。

「お前さん、前回より、反応がいいんだな」

 前回と言っても、まだ1ソーラーサイクルも経っていない。まだこいつの回路が覚えて敏感に反射しているのだろう。動かすたびに声は漏れ、ナカの反応も悪くない。

「コ、以上は、ヤメ……。ブレイン、が馬鹿にな、……!」
「俺としてはその『馬鹿』になったあんたが見たいんだけど」

 負荷熱で思考が鈍くなったあんたを見たい。あんたの欲を暴いてみたい。あんたは悪い意味で目立ちすぎる。その表情を崩してみたい。もし、無いのなら『つくりあげて』みたい。あんたは気づきもしないんだろうが。
 輪郭を指でたどると頭を反られられる。与えられた刺激に対抗しては流されそうになり、踏みとどまる。俺に好き勝手されるのが怖いくせに。自分で律する方がこの立場に甘んじているよりは、こいつの性には合ってるはずだ。……わがままなところもあるし、簡単に言っちまえば悦楽主義ってやつなんだろう。制御するのも大変だし、溺れた方がラクだ。
 まあ、都合が良いからという理由だけで俺にその体を預けられるほどの信頼がサウンドウェーブにあるならば、些細なことだ。

「お前さんは、自分が思ってるより――」

 言いかけて止めるが、思ってしまえばこいつにスキャンされる。顔を腕で隠したサウンドウェーブの聴覚センサーに続きを囁く。すると、その腕がどかされ、能面ながらに少し怒ったような戸惑ったような表情がその下から覗いた。
 なんだ、そんな表情も出来るのか。
 覗き込めば、顔を腕で押し返される。

「見、っな、」
「だから、俺はあんたのそういうのが知りてえんだよ。ここにはあんたと俺しかしねえだから恥ずかしがんなって」
「そう、っ、問題じゃ、い」
「手前のがどうなってんのかくらい見りゃあいいじゃねえかよ」

 なあ、と完全に立ち上がったサウンドウェーブのコネクタの先を弄る。熱さを感じなくなってきている辺り、俺のほうも熱が高まってるらしい。
 先ほどの言葉をまたセンサーの近くで囁いてみる。オイルが垂れているせいか、指の滑りが良くなっている。それを自分でも感じるのか、否定を表すように頭を振ってみせた。

「、ぁっ」

 両方を刺激しているのに音声が小さくなったと気づくと、声を押し殺そうと腕に歯を立てている。
なんで、こいつはこう、嗜虐心を煽ってくるのか。
 レセプタに入れていた指を引き抜くと、サウンドウェーブが身構えるのが分かった。
 流石に2回目じゃあ、次に何が来るかくらいは分かるんだろう。

「塗装。剥げるだろ?」

 サウンドウェーブの口内に指を無理やり入れると、圧し掛かった重みでそのまま自身をナカに沈めた。