スカボロフェア
なんか、坊ちゃんとの関係は、別れてからの方が心地よくなったなぁ。長く生きてきたけど、こんなのは初めてだよ。
フランスがしみじみとそう呟いたのが聞こえた。
パセリ、セージ、ローズマリー、そしてタイム。
恋人だった時の俺たちは自分たちでも。そして周りから見ても、最悪な関係だった。自分の都合と希望だけ押し付けあっていたせいでセックス以外の顔を会わせているときは絶えずギスギスしていた。相手のエゴばかりが目に付いた。先ほどフランスはこんな『恋愛』は初めてだと呟いていたが、俺だってそうだ。こんなに 余裕がなくて面倒くさくて疲れやすい関係なんぞ今までなかった。しかも、恋人じゃなくなってからの方が、冬の雪の日のように穏やかに胸の中にしまっておける関係なんて。
いやな馴れ合いが生じて、都合のいいように相手を扱おうとした。
その状況でよく、恋人、と相手を思えたのだろうか。何故かは分からないが、お互いにとってメリットのないむなしい関係だったのははっきりしている。でも、なぜか、その体の熱だけで誤魔化す居心地の悪い関係を俺もフランスも断ち切らなかった。多分、それでも愛していたからだと思う。
で、別れの言葉もなく、なんとなく恋人になったように、どちらとも無くなんとなく恋人ではなくなった。
パセリ、セージ、ローズマリー、そしてタイム。
しかしながら愛情というものは不思議なもので、押し付けたり求めたりすることからふっと力を抜けば、まったく違ったものになる。あれから、フランスとは冗談交じりに「お前が恋人じゃなくてよかった」なんて話をよくする。こんな関係でも俺は満足している。
2008/12/14 (2009/11/16加筆)