スローダンス(仏英) - 5/6

『フランシス・ヴォヌフォア』は、先の台詞から『アーサー』が抵抗しないことに驚いていた。いつもの自身への反抗が嘘のようだ。
普段もこうなら、というのもある。
そんなことを考えながらもその指は、ジャケットやネクタイをなくした白いワイシャツに滑り込んでいて──。

女がそうするように、爪を少し立てて上下に動かすと、彼の下にいる男は口を手で押さえた。
あぁ、やっぱり抵抗しないのは嘘だ。声を出したくないらしい。しかし、フランシスはそんないつものアーサーの方がやはり落ち着くらしく、慈しむような表情で相手に微笑んだ。

「アーサー、」

『アーサー・カークランド』には、自分に触れる『フランシス』の指が、いつも自分と叩きあったり殴りあったりする指と同じとは思えなかった。
それはひどく優し過ぎるのである。
いつもの、あの指が触れていると考えるだけで彼は自分の頬が恥を躊躇う色に染まるのが分かった。

こういう時は、男も女も、皆こんな切なげな表情をしているのだろうか。
身を裂かれた痛みもあるが、相手の生きている熱さが落ち着く。女達がフランシスの熱さにこうやって甘えたのも、今少しだけなら理解出来る気がした。

自分達には喉からの甘ったるい声も、愛の囁きも全然ないが、とりあえず今は繋ぎたかった。
快楽ではなく、只のそれとして。