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チョプフィク・2

※TFADVチョップショップ×フィクシット (2)
落ちていた機能が回復したとき、ぼくはもう既に基地の中ではないどこかにいた。
よかった。ぼく、一応は生きてるわあ。
まずはそう思った。しかしそのすぐ後に、『これから』破壊されるかもしれないという可能性に気がついて泣きそうになる。ぐるぐると理不尽に与えられる恐怖に理由を求めるが、見つからない。
自分を抱きかかえている四つ目の合体兵士の様子を覗って見れば、機嫌よく歩いている。
歩いている森にしても、基地の近くの木とは少し種類が違うし、成分の違いからか土の色も違う。自分はどれくらいダウンしていたのだろう。
そのうち、ぼくの視線に気がついたのか、四つある目のうちのひとつがこちらを見た。
「坊主、起きとーと」
あまりに邪気のない声音に驚く。少なくとも首絞められて誘拐された捕虜に使うトーンではない。
ヤバい。こいつ思ってたんよりサイコなんちゃう?
返事もできないでいると、首根っこをつかまれて顔の高さまで引き上げられる。また首を絞められる!と思わずオプティックを絞るが、別に苦しくもなければビリッともこない。ただ、歩き続けてはいるらしく、そのせいで揺れはする。恐る恐る視界を開くと、至近距離から覗き込まれていた。
喉がひゅっと鳴る。
「なんね。別にとって食ったりはせん。俺らは捕虜ば取らんけん」
「はあ?なんでやねん!今まさにぼくを憂慮、いや、伴侶、いやいや、捕虜にしてるやん!」
思わず声を上げると、チョップショップはこうるさそうにしてみせる。
いや、刺激させるつもりはないけど、突っ込まずにはいられんわ!
しかし、怒りはしなかったらしい。
「きさんは、俺らんスペアパーツたい」
と、ちゃんとこちらの疑問に答えてくる。
って……いいんかーい!
「いやいや、それこそ意味わからんやん。あの時は確かに自分右腕無かったけど、今はおるし」
「お前、技術者やろ。俺らがこの星出てくんに色々必要ばい。さっきは思わずかっさらって来たばってん」
必要だから思わず……って。衝動的にぼくの首絞めて攫ってきたっちゅうことかいな。いや、確かにチョップショップの犯罪歴は盗みばかりで殺しの案件は無かったはずやけど。
こちらから目を離さない四つの黄色い光からは真意は測れない。
ぼくがスーパー技術者にしてキュートなマイクロンにしろ、衝動的にしろ何にしろ。基地から攫ってきたら、ぼくの仲間が追っかけてくるんは想像しなかったんかいな。
腕利きの盗賊っちゅう話なのに、そんな行き当たりばったりで大丈夫なんか。
「ま、オートボットから逃げるんは、ばり簡単ね」
「今迄のはそうかもしれんけど、ビーやんたちは他のとちょっと違いまっせ!あのひとなら、またすぐにポッド行きや!」
「なんやと?」
「ひっ」
ぐっと距離を詰められる。
流石にポッドという言葉にはチョップショップも激昂しかけたようだったが、すぐに冷静さを取り戻した。
「……なんば言いたかこきばしようと。誰だって同じばい。同じ轍は踏まん。せからしい坊主やの。宇宙にこれから出てっても、先の思いやられるたい」
「はあ!?宇宙!?ぼくは解放されないん?」
「解放?なんばこつ言うね。きさんは俺らんスペアっち言うたやろ。俺らは必要なもんと手に入れたもんは離さんと」
運命共同体っちこつばい。
さも当然のことのように、チョップショップが不敵に笑ってみせる。
こいつら、あの時も、ぼくのことをあのまま連れてくつもりやったんか!
「……一応、確認したいんやけどな?」
「おう、言うてみんしゃい」
「ぼくの意思とかそういうんは?」
何を自分が期待してたのか、それがどれだけ無謀なのか。チョップショップが次に口を開いた時、質問の無駄さを思い知らされた。
「お前はもう俺らんもんたい。俺らと居るんが道理やろが」
チョップショップの理論に絶句する。
そんなん嫌や!
あまりに同意しかねる内容にじっとその細められた4つの黄色の光を探るが、チョップショップが『マジ』らしいことしか分からない。ぼくがまっすぐ目を逸らさないのをチョップショップは気に入ったらしい。ニヤッと笑ってくる。
「何ね坊主。今日はやけに威勢のよかな」
しかし、チョップショップが許さなくても、ぼく自身はついていくつもりなんてさらさら無いし、そして何より……
「ビーやんが助けに来てくれるから平気やもん」
チームが助けに絶対来てくれる。今はその自信がある。ぼくだってチームのメンバーやし、必要とされてんねん。
しかし、その態度がチョップショップは気に入らなかったらしい。ぼくの言葉が発せられた瞬間、空気が変わったのが分かった。
「せからしか」
「口を開けば、バンブルビー、バンブルビーっち……そげなこつば言うていられるんは、今んうちだけっと。名前しゅら呼べなかごつしてやるけん」
2015/6/24

ジャガ音(未完)(R-18)

モブレされた音波さんをジャガーさんが舌で掻き出す話(裏垢で6/14-15に話してた奴)
※モブレからの軽いジャガ音(未完)
※ちょっと生殖の概念があるので注意。
※性交描写がある為、18歳未満の方の閲覧は控えてください。

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初代ホイラチェ・7

 
 
「ホイルジャック、君はどうなんだ?」
話しかけると、ホイルジャックがひどく驚いた様子でこちらに振り向いた。
ずっとすぐ近くにいたのだがね。私は大抵はホイルジャックと同じ待機時間なのだから居ない方がおかしいんだ。
バンブルが『またラチェットに怒られるよ』と言った時、スパイクがちらっとこちらに目線を送って来た。それに対して、聞こえてるよ。そう後ろから返そうと思ったその瞬間、ホイルジャックが弄っていたマシンが爆発したのだ。それにしても、忘れられていたという事実は心外である。
「手を見せてもらおうか?」
驚きに固まるホイルジャックなんてあまり見れるもんじゃないから物珍しくはあるが、こっちは医者だ。反応のない患者はさておき、さっさとその手を取る。
思っていたほどじゃない。すぐにほっとはする。しかし、手の中で爆発しただけあって、手の内はかなり焦げていた。表層部の怪我だが、熱で支障が出るかもしれない。この人は技術者でもあるのだから何か手の動きに支障が出ては困る。
「大したことは無さそうだが、回線がショートしているかもしれない。しのごの言わず、ちょっとリペア台まで来てもらおうか」
そのまま腕を引っ張り立ち上がらせると、ようやく驚きの呪縛から解けたらしい。ホイルジャックが情けない声をあげた。
「あいててて!ラチェット君、吾輩、一応は怪我人!」
「あんなに気もそぞろで機械いじりなんてするからだ」
「堪忍してえな」
もう一度だけ引っ張ると、ホイルジャックが渋々といった様子で歩き出す。このやりとりに、バンブルとスパイクが側で声をあげて笑った。
「笑い事じゃないんやけどな」
これに関しては私も同意見だ。
ホイルジャックが振り向くのにつられて後ろを見れば、ふたりともいってらっしゃいと手を振ってみせた。これは着いていかない、助けるつもりはない、という意思表示だろう。それを見て、やっとホイルジャックも諦めたようだった。
私の前で怪我をしたのだから、拒否権など最初からないのだがね。
「すまなかったね、君たち!」
区画のドアが閉まる直前、もう一度、ホイルジャックがうしろにむかって叫んだ。
怪我をさせかけたことはやはりショックだったらしい。
そこでドアが閉まり、ホイルジャックは小さく溜息をついた。そして、今度はこちらも謝ってくる。
「……ラチェット君も、すまんね」
まったく。このひとは。私が何に怒っているのか分かっていないのか。しかしこういうところは素直だし、本人に悪気は無いし、別に迷惑なわけではないから憎めない。
ある意味では私とは似ても似つかぬ性格でもある。
「流石に慣れたよ」
こういう時は説教をするべきなのだろうが、そう言うしかない。そして、こういう時にかけてやる言葉はいつも決まっていた。
「君が壊しても、私が治せばいい」
私のモットーであり、またこの奇妙な友情を表す言葉。ホイルジャックはこれを聞く度に、いつも照れ臭そうにしてみせる。
まあ、ホイルジャックにとっては、別に治すのが『私』じゃなくても構わないんだろうが。
そう思うと、なんとなく悔しくはある。
このひとのようなひとは少なく、私のようなのはそうでもない。私は戦士というよりは医療班で。ホイルジャックはそういう意味では同じ区分だが、発明の才能やら飛行能力やらは私には無い。私が怪我をした時は、ホイルジャックが私の面倒を見る。交換が簡単に効いてしまうのだ。
そんなことを考えてしまったからだろうか。いつもはここで切り上げる言葉をつい繋げてしまう。
「ただ、頼むから私が治せないような怪我はしてくれるなよ?」
そうでなければ、私はこのひとにとって役立たずだ。それだけは避けたい。それに、この『今まで一番修理しなくちゃいけなかったやつ』におちおち壊れてしまわれても困る。私だってキツイことは言っても、仲間が傷つくのは嫌だ。(もちろん、修理に追われるだけの生活ってのも嫌だ。)
「君ほどの医者がどうしたんだね」
そんな私にあっけらかんとしてホイルジャックが返した。何を根拠にとは言い返したいが、褒め言葉ではあったことには思いついた皮肉を飲み込む。
「しかし、吾輩としては『毒にもなるが薬にもなる』なら、毒も試さずにはいられない性分なんだけどね」
これを聞いて、彼の本質は確かにここなのだろうなと思う。兵器になるとしても何かに役に立つものなら作ろうと思うし、作ってみればちゃんと機能するかどうか試したいと思ってしまう。自分を傷つけてまでも、彼の言う『調節』を重ねてより強いものへ作り変える。そういえば、いつかの作戦で、司令官が動かすなと言ったあのダイノボットを利用しようとしたのも彼だった。
その毒まで食らう根性をよく物語っているのが、彼の頭部をぐるりとめぐるマスクパーツだ。爆発の耐えない作業の怪我から頭部を守るためにがっちりと後頭部からボルトで留められたその表面には、何度塗装を塗りなおしても大小の傷が無数にあるのが見える。傷つく前提でマスクをつけているのは、少しぐらい自分が傷ついてもいいと思っている証拠だろう。
やっと着いたリペア台に座らせながら、ホイルジャックに釘をさす。
「毒の飲み方を知らないと、いつか身を滅ぼすぞ」
「へへ、相変わらずきっついなあしかし。でも、流石に医者が言うと重みがちがうねえ」
「よく言うよ」
話しながら軽く検査をするが、手の内部の回路にも特に大きな損害はない。指先まで痛みなく動くようだ。そこでやっと本当に安心する。このひとに関しては、心配しすぎるに越したことはない。
ほっとしたところで、私は不意にハッとする。
今がチャンスなんじゃないか?
触れてみたいと思ったあの時から、あのもっと知りたい触れたいという衝動がなんだったのかと試してみたくあった。
その手をぐっと掴み、手を挟んでホイルジャックの青い目を覗き込む。この間、ホイルジャックが私の肩を掴んで、覗き込んできたように。――あれの何が私にとって問題だったのか?
2015/5/16

初代ホイラチェ 6

 
 
今日は、テレトラン1の前に座って待機していると、よく話しかけられた。
「なんだ、ホイルジャック。じゃあ、結局惚れ薬はやめたのか?」
「面白い案ではあったんだけどね」
手持ち無沙汰なメンバーが、テレトラン1の近くにたむろすることのはよくあることだ。それでも、こうも会う機体会う機体に話しかけられることはめったになかった。
惚れ薬の噂は打ち切りになる前までにかなり話題になっていたらしく、手すさびに昔の失敗作をいじっているところへ、何人かに惚れ薬の進捗を尋ねられる。意外とみんな興味がある分野らしく、聞かれるとは予想もしていなかった機体にまで声をかけられた。
吾輩が兵器にならないものを喜んで作るってのがそんなに珍しかったのか。それとも、意外と本当に需要に適っていたのか。
そのせいか、心理実験のことを持ち出すと、かなりの者がボランティアとして参加してくれると約束してくれた。吾輩が気にしていなかっただけで、みんなそれぞれ男性タイプにしろ女性タイプにしろ思うところのある機体が居るようだ。
『君はいつまでたっても恋愛ごとには慣れないなあ』。彼にああ言われた時は最初にムカッとしたが、本当にその通りだったのかもしれない。
でも、なんであの時、あんなに苛々したのだろう。注意散漫気味にそう思う。
いいや、吾輩だって流石にこれだけ長く生きているんだからそれなりに腫れた惚れたに騒いだことだって一応はあるよ?かなり昔のことではあるけれど。しかし、それだけじゃ――
ふいに、あの時何を考えていたかを思い出す。
……彼がいままでどんな関係性を他と築いていたかは知らないが、か。これじゃ吾輩が嫉妬しているようじゃないか。
思考がこんがらがる中、手の中の失敗作が小さく音を上げた。いかんせん、どうも気が散ってしまう。
とにかく。比較できるような惚れた腫れただのことが昔過ぎるから曖昧で、明確な理由も見つからないが、あの数値が表す意味には吾輩の彼への気持ちは当てはまらない。そうは強く思う。はっきりは言えないが、そうでないと困る。困る?しかし、彼とは今の関係性が一番なはずなのだから、それ以上を自分が何か望んでいるはずがない。彼は吾輩の友人で、とにかく、『お気に入り』の機体という意味での好意を持っているってことでしかないはずなのだ。
その域を出ないはずなんや。そう。気に入っていると言うだけなら、このミニボットや人間も吾輩の『お気に入り』だ。
「コンボイ司令官の許可が下りなかったんだってね」
「聞いたよ。残念だったね」
バンブル君とスパイクがそう口々に言って慰めてくる。吾輩のお気に入りの親友コンビのふたり。しかし、彼らの誰かとの色恋沙汰の噂を聞いたとしても、嫉妬はしないだろう。微笑ましい以外の感想が出てこない。
……どうも彼は少しばかり近すぎるのかもしれんな。それでも、彼があまりそっち方面に興味が無さそうだから、吾輩としては安心だ。
安心、という言葉を浮かべて、自分でまた苦く笑う。理由の付けられないことが多すぎる。これ以上考えるのはよそう。
「その代わりと言ってはなんだが。好意や嫌悪についての心理実験の許可は司令官にもらったんや。よかったら今度バンブルくんたちも参加してくれんかね。簡単なテストだから」
「オイラは構わないよ」
「それって僕も受けていいの?どんなことをするんだい?」
「そうさね……」
実験について説明し始めると、またその横を通りすがりに惚れ薬について尋ねてくる者がある。その度に、やめたのだと訂正をする。
その様子を見ていて、バンブル君が感嘆するように言った。
「惚れ薬、って。結構需要があるもんなんだね!」
「これは吾輩にも意外だったのだがね」
その表情を見ると、やっぱりどこか惜しい気分になってくる。
でも、ここまで周知なら、みんなに発表する楽しみは無かったかもしれない。みんなの驚く顔がやっぱり発明の醍醐味のひとつではあるからなあ。
だから、こういう失敗作でも、面白そうなモノにはたまに手を入れてしまう。手元のマシンを見てそう思う。
「……でも、今思えば。惚れ薬を吾輩自身に実験で使うのくらいは作っても良いか、くらいは許可を取っておくべきだったかもね」
「でも飲み薬って言うと、機体に取り込むんだから。失敗したら身体に毒なっちゃうんじゃないの?」
慰めなのか、スパイクがそう言って肩をすくめて見せる。
そうだった。機体の内部に影響するのだから、たとえ成分に変なものが入っていなくても――
「そうだよ。またラチェットに怒られるよ」
バンブル君に思考を先取りされる。突然出てきた、彼の名前に、自分がひどく動揺したのが分かった。頭の中をのぞかれたような感覚に、思わず、試作品を握り締める。すると、手元で弄繰り回されていたマシンが小さく光り――
しまった。先ほどから適当なことをしていたから、小さなショックにも耐えられなくなっていたらしい。
「おっと!」
悲しいかな、こんな事態には慣れている。
瞬間的に、ふたりから腕を遠のけ手の内で――爆破させた。
同時に、ふたりが小さく声を上げる。握り潰したおかげで、部品が飛び散ることもない。しかし、一応安全を確認する。
「ふたりとも怪我は無かったかね?」
すぐさま尋ねると、バンブルとスパイクが首を振ってみせた。
「よかった。本当にすまない。誤ってボタンを押してしまったみたいでね。ここで話しながら片手間に弄ってたのが悪かった」
「……ちょっと吃驚はしたけど、僕らは大丈夫だから」
そう言って、安心した顔をし合う。が、次の瞬間にふたりの顔が苦笑いに変わる。
その理由を想像する間もなく、後ろから声がかけられた。
「ホイルジャック、君はどうなんだ?」
2015/5/10

チョプフィク・1

※TFADVチョップショップ×フィクシット (1)
ポッドに再収容された囚人たちの様子を確認するのは、フィクシットの日課のひとつになっていた。
とは言え、以前、物言わぬコールドスリープ状態の囚人たちに囲まれて宇宙を孤独に旅していた時にしていた業務と寸分違わない。ただ、その仕事に対する彼の気持ちは全く異なっていた。
もちろん、囚人たちを逃してしまった自責はある。それでも日々埋まっていくポッドの間を歩く作業をどこか喜ばしく感じているのは事実であった。目に見えて分かる、チームの功績である。
バンブルビーを筆頭としてオートボットやダイノボット、ひいては人間に至るまで。今は頼れる仲間がすぐ側にいる。――――以前はひとりで何もすることがなく、むしろコールドスリープ状態で何も知らずに眠っている囚人たちを羨ましくさえ思っていたほどであったのだが……
特に、ある囚人が捕まってからというもの、フィクシットにとってポッドの見回りという地味な業務は楽しみにさえなってきていた。
ぼくが居たから、コイツを捕まえられたんや。
定期点検以外は視認で済ませるだけの見回りの時、フィクシットはいつもチョップショップという名の合体戦士のポッドの前にしばし足を止め、そんなことを思う。
アルケモア号を墜落させて囚人たちを解き放ってしまって以来、自分が仕出かしたことの尻拭いをバンブルビーたちにさせているという気持ちは少なからずあり、 フィクシットをずっと苛んでいた。好奇心という点でも現場に出て行きたいという思いはあったが、責任を取るべき当事者でありながら何もできず基地で仲間の帰りを待つのは耐え難かったのである。
だから、仲間たちが「こいつを捕まえられたのは、フィクシットのおかげだ」と言ってくれた記憶のあるその機体には、少なからず思い入れがある。それに、非戦闘員である自分が現場で役に立った証拠でもあるのだ。
マイクロンのぼくでも、出来ることがある。
ポットの中の大きな機体を見る度、フィクシットは自分をそう誇りに思える気がした。確かに彼は囚人たちを逃がしてしまった。しかし、責任をとることは(容易くはないが)彼にも出来るのだ。また、監獄船にひとり居た時は、5体でひとりにもなるその合体兵士が羨ましくてしかたがなかったのもあり、フィクシットにとってチョップショップは『特別な』ディセプティコンのひとりでもあった。
が、フィクシット自身も、そのチョップショップにとって『特別』視する対象であるとは彼は微塵も思ってもいなかった。
最後ノックアウトさせたんは、ぼくじゃないやん!
なんでぼくなんですの?
確かに、ぼくが抜け駆け……歯っ欠け、いや、切欠だったかもしれへんけど!
非戦闘員やし、人質みたいになってた時も会話すら無かったのに!
頭の中に聞きたいことや言ってやりたいことが浮かんでも、発散されずに消えていく。自分の口を押さえ抱きかかえている四つ目の合体兵士を見つめながら、どうしてこんなことになったのか。フィクシットは泣き出しそうになった。
いつもと変わらない一日の終わりやったはずやのに……
「それじゃ、俺たちはパトロールに行って来る。ストロングアームとサイドスワイプが待機しているから、こっちの方は大丈夫だと思うけど。何かあったらすぐ連絡する」
「はーい、行ってらっしゃいー」
車にトランスフォームして颯爽と出て行くバンブルビーとそれに続くグリムロックに手を振り振り見送る。そのまま伸びをすると、ロケットの形をしたゲートの上空に月が昇っているのが見えた。
今日はなんも起こらんで終わりそうやな。
日が沈んで暗くなり、人々が眠りにつき始め、トランスフォーマーたちの姿が目立たなくなった頃。つまり、ディセプティコンが闇に紛れてより大掛かりに動き出す時間。しかし、時刻が真夜中に近づいても、森や街に変わった様子はなく、そのまま平和のままに一日が終わろうとしていた。
そこで、手持ちぶさたでヤキモキしているバンブルビーのパトロールついでに、日中外に出られずにいるグリムロックが気晴らしとして同行することになったらしい。見回すと、バンブルビーの言葉通り、他の二機が待機していた。ストロングアームは特訓の最中で、サイドスワープは遠くで音楽を聴いているのが見える。ラッセルもデニーもワゴンの中に居るらしいのが、窓から漏れる灯りで分かった。
「じゃあ、ぼくはポッドの点検でもしましょかねー」
誰に言うわけでもなく、ぼくはそうひとりごちった。
何か異常があればぼくの定位置であるコンピューター前の画面に情報が発信され、すぐに誰かが気づける。だから、持ち場を離れるのには何のためらいも無かった。
そんなに距離も無いしなあ。
この基地もやっと整備が整ってきた気がする。アルケモア号の中枢の再現はかなり進んだ。最初は墜落した船から回収した壊れたコンピューターやコンソールやポッドやなにやらで雑然としていたが、ようやく整理がなされ、特にコンピューターとポッドの集められた一帯だけかつての監獄船の様相を取り戻しつつあった。
「なんの問題も無しやな」
点検と言っても、毎日視認で確認されコンピューター制御でスリープモードに保たれているポッドたちに大抵問題は見つからない。ハンマーストライク、ビスクの二機のポッドを確認し、そしていつも通りチョップショップのポッドの前に足を進め――
ぼくはつんのめった。
「嘘やろ!?」
目の前の光景に、ついに自分のオプティックまで壊れたのかと思う。
思わずあげた悲鳴に近い驚きの声に、ポッドの前にいた『そいつ』が振り向いた。
「ありえへん……!」
スキャナーも追跡装置も復旧してるのに。シグナルを発信する設定になってるはずやろ!?
否定の言葉が口をついて出る。しかし、相手はそんなぼくに対して自分の存在を示すかのように、意地悪く笑って言葉を投げかけてきた。
「よう、坊主。ここで会ったが百年目たい」
チョップショップを捕獲した時に逃してしまった五体のうちの一体。赤い大きな蜘蛛の姿をしたディセプティコン。
そうか、残りの四体が基地の中のポッド内に居るせいで、センサーがうまく感知できてないんや。
無言で動けずにいるいるぼくにニヤリと笑って見せるその赤い蜘蛛の後ろで、ポッドの扉が開く。そこから漏れ出した冷気の意味を知っているぼくは思わず後ずさった。
入口に赤い手がかかり、続いて大きな機体がゆっくりと姿を見せる。
危険。まずい。あかん。ダメージのあっても、それだけは分かる。チョップショップは一人だけで、チームを窮地に追いやった存在や。
無理やって!ぼくひとりだけで勝てる存在じゃない!
その足りない右腕の部分に、先ほどの一体がくっつき、その腕がこちらに伸びてくる。
慌てて距離を取る。が、途端、背中に他のポッドが触れた。
しまった――――
ゆっくりとまっすぐ近づいてくる巨体から逃げようと横に走り出す。しかし、笑い声が聞こえるとともにすぐに腕を摑まれ、高く捩じ上げられた。強い力に肩の関節が悲鳴をあげる。そして、恐怖で押し黙っていた声の方も、そこまでが限界だった。
「あわわ、メーデー!メーデー!」
発生器からやっと絞り出た声は、仲間が目と鼻の先であるのにもかかわず小さく、誰にも届かない。
誰か、誰でもいい、気づいて――――
宙に浮いた体がポッドに押し付けられ、大きな掌に首を絞めらる。
「う、っ」
「……よクモ、俺らば閉じ込めとーと」
ああ、これからこいつに復讐されるんや。
抵抗すれば、ギュッと首を締める力が強まる。
フリーズしていくシステムの中、黄色く光る4つの目だけが、細く鋭くこちらを見下ろしているのが妙にセンサーに色濃く残った。
20150501
同日、加筆・誤字修正

初代ホイラチェ・5

 
 
「まさかこのマシンもこんな形で日の目を見るとは」
ヘッドギアを頭にはめて計器の安定と質問を待ちながら、ひとりごちる。
サイコプローブやなんかほど野蛮じゃないけれど、その分威力の方はイマイチで、使いようが少なくて可哀想なことをした。やはり少し毒気があるほうが吾輩好みではあるし、色々なことに使い勝手が効く。マシンの強力さは使いこなせない時や制御できない時に害になる諸刃の剣ではあるが、強い方がなにかと便利だ。試作は例外として、強いものの方が力の幅が利く。それが分かっているから、完成してもなお無理に改造を重ねてしまうのだが。『毒にもなるが薬にもなる』なら、あえて毒も試しに飲まねばならない。
でも、このマシンにしろ、何が必要になるか分からないから長く生きるとは面白い。単純な構造だから吾輩ではない誰かが作れるものではあるが、無いと困る者もいるのだ。愛着が湧けば、『これじゃなきゃダメだ』というものになる時だってある。簡単に代替や取り換えが出来るモノは意外と少ないのだ。
「自分で始めててなんだけど、心理実験っていうより心理テストみたいだよねえ」
まあ、初めての試みだし、専門からは外れるのだからこのレベルか。
こう何も出来ない状態を強制させられると、ぐちゃぐちゃと色々なことを考えてしまう。
先ほど妙にぼんやりとしていたラチェット君の気持ちも分からなくもない。そんな彼も今は先ほどの結果を打ち出したものを食い入るように読んでいる。ホイスト君も答える時はぼんやりとしていたように見えた。ラチェット君もホイスト君もいつも多忙だからなあ。いざゆっくりするとなると、ああもなるのだろう。
何かとあのふたりには、みんなお世話になっている。デストロンと戦った時の修理はもちろんとして、日々の健康は細やかな補修サポートによって成り立つ。ホイスト君も惚れ薬に興味があるようだったが、彼も誰か気になる人でもいるのだろうか。なんとなく思い浮かぶ相手としては――
そこまで考えてやれやれと自分で思う。
「好きな、ねえ」
吾輩もゴシップ精神にやられてしまったようだ。しかし吾輩とて、ひと様のプライバシーに首を突っ込むのが面白いと全く思わないと言ったら嘘になるのだ。
それしても、ホイスト君の場合はすぐに相手がうかんだのに対し、ラチェット君の相手は先ほども思い浮かばなかった。彼こそ修理で一番他の機体に接触する相手が多いのに、だ。患者に皮肉や小言を言ったりはするが、腕は確かで、どんな傷でも治そうと最善を尽くしてくれる。本人は気づいてもいないが、あれでなかなか慕われている。……なるほど、選択肢が多すぎるからだろうか?それに、吾輩が彼と出会った時点からあまり恋だの愛だのに熱をあげた姿を見たことがない。吾輩のことを『慣れていない』と言うくらいだから、吾輩の気がつかないところで何かあるのかもしれない。
こっそりとホイスト君と並んだラチェット君を盗み見る。途端、ホイスト君が笑い声をあげた。
「何を想像したんだ?今、すごい数値が伸びたぞ」
冗談めかして笑うホイスト君に、ラチェット君も画面を覗き込む。
しまった、もう実験は始まっていたらしい。まさか。何の質問にせよ、まだ想像もしていない。驚いた吾輩を、ホイスト君はデータの正確性への疑問か何かと勘違いしたらしい。ほら、とデータをまじまじと見せてくる。
確かに、大きく脳波のグラフが振れている。
「吾輩、まだ想像もしていないのだがね。というか、ボーっとしていたから質問さえも聞いてなかった」
「何だって?」
今度はホイスト君が驚いたようだった。
「うーん、計器の故障かね。微調整が上手くいっていなかったか」
ヘッドギアを外し、手元で見直す。回路部を見てみるが、何か目に見えておかしくなっているところはない。出力ケーブルは新品だから中で導線が切れているはずもない。画面に近寄り、もう一度頭部につけなおす。
そこで先ほどから、自分の実験データを手に黙りこくっていたラチェット君もやっと声を上げた。
「実は私もさっきの実験でぼんやりしてしまって、こんなに一番最初の質問にはっきり脳波が出るはずがないんだが」
「どうなってるんだ?でも、俺のデータもラチェットのも、過去の心理実験のデータとは合致するけどなあ。」
二人が話し合いに突入する傍ら、交互に好きなもの・嫌いなものを想像して簡易的に自分の脳波をチェックする。
「好きなもの……嫌いなもの……ほら、正常に動いてる。やはり異常はないみたいだ」
さっきはただ、ホイスト君たちのほうを見ただけだ。そう、ラチェット君の思い人について考えていてラチェット君を――
その瞬間、針が大きく振れる。
「なんだ、ホイルジャック。やっぱり、こんな数値が出るくらい好きなものがあっただけじゃないか。妬けるね」
ホイスト君があっけらかんと笑った。またベッドチェアに戻るように促される。ラチェット君はまだ自分の結果が気に入らないらしく、さっきのようにその目は手元のデバイスに表示されるデータに移っている。ホイスト君は出力画面の前に座りなおす。
「じゃあ、もう一回最初から聞くよ?好きなものを想像してください
マスクをつけていてよかった。今、見せたこともないような表情をしているだろう。いつだって見通されているんだ。ラチェット君になら、ばれてしまう。
ラチェット君。そう考えたときに自分の機熱が上がるのが分かった。
さっきの係数が何を意味するのかは、この測定器を作った吾輩が一番知っている。
なんてこった。
「――よし、大丈夫だな」
ホイスト君が『ちゃんと正常に動いている』と手を振って見せる。
計器に異常はない。吾輩もオールグリーンだ。つまりそれが意味することは。
「……なんてこった」
思わずこぼした言葉は、ふたりの聴覚センサーには届かず、自分にだけ響いた。
2015/3/9

初代ホイラチェ・4

 
 
出て行った司令官の背中を見送り、入り口に向けていた視線を戻すと、吾輩の言った通りだろうとホイルジャックがこちらに振り返り笑った。確かにコンボイ司令官らしい。そう思い、微笑み返す。
しかし、内心は少し戸惑っていた。司令官に説明する時、うっかりホイルジャックが何かさっきのことを少しでも漏らさないかと思いはしたが、そんなことは全くなかった。が、今になって恥ずかしくなってきている私としては、どうしようもないフラストレーションが解消されずにもやもやし始めている。
『口説き文句』のようなものをこのホイルジャックが冗談にしても私に言ったのだ。まあ、司令官に何かさっきの台詞を聞かれて意味を問われでもしたら困るのだが。困る?いや。たとえ聞かれてもただの友人同士の他愛無い冗談ではあるし、傍から聞いていたら大したことはないのだが……
『例えばの話にしろ、もっとうまい事言おうと思ったんだが。こういう文句は思いつかないもんだね』
この言葉が、私には問題で、大したことがあるからこうもすっきりしない。
その一方で、ホイルジャックは早速実験の準備を喜々として始めている。ラボの奥で何かごそごそと探す音がする。もやもやはするけれど、そろそろ私も手伝わなくては。
「ホイルジャック!」
ちょうど立ち上がったところで、ホイストがラボ入って来た。
「お、いきなりどうしたんや?」
「いや、さっきホイルジャックが惚れ薬を作るんじゃないかって聞いたんでね」
また話の始まりが伝聞調だ。コンボイ司令官にしろ、今日は何かの噂を聞きつけて研究室に飛び込んで来る者が多く、なんだかせわしない。
そのせいかひどく心がざわついてしまう。
「ああ、それね。今ちょうどおじゃんになったところさね」
「どうして?」
「それがいろいろあって……長い話でねえ。とにかく、コンボイ司令官にノーと言われたんだ。しかし、代わりに実験をする許可は貰ってるんでね」
いやあ、ちょうど良いタイミングに来てくれた。ホイルジャックがそうにんまりした。
ああ、唖然とするホイストが可哀想だ。答えになっていない。しかし計器を腕に、そう嬉しそうにされては二の句が継げない。
とりあえずはホイルジャックを放っておいて、ホイストを近くに呼び寄せて説明する。ホイルジャックがその発明をなげてしまったこと。コンボイ司令官の意にも沿わなかったこと。しかし実験はしたいという希望はどうにか通ったこと。そこまで話して、やっとホイストも合点がいったようだった。
多分、こうも噂として広まってしまうと発明品を見せても誰も驚かないのが嫌だとへそを曲げてもいる部分もあるのだろうとは思う。
そうこうするうちに診察用のベッドチェアが引っ張り出された。
「まずは、ラチェット君からやってみようか」
ぽんと脳波の測定器を頭に置かれ、椅子に座るように促される。そのまま引っ張られるままに腰をつけ、すかさず指先やらに計器をはめられる。
この人は、何気なく触れるのだな。と私の手に自分の手に重ねて細かい操作を教えようとするホイルジャックを横から見て思う。
付き合いは長い。自分のリペアを頼めるほどの仲だ。ホイルジャックは自分のことを私が「今まで一番修理しなくちゃいけなかったやつ」だとよくおちゃらけているが、実際この発明家の装甲の下のほとんどについての私は知っている。だが、あの時みたいに触ったことはあったか?
『だから君がもし、吾輩がこのエネルゴンに惚れ薬を盛ったって信じるなら、それは惚れ薬になるって思わんかね?』
彼の中身は知っている。しかし、中身のナカミまでは知らない。そこで妙な欲求が発生する。触れてみたい。修理やら作業ではなく、もっと――
「……ラチェット君、吾輩の話聞いてた?」
説明を途中から何も聞いていなかった。 ホイルジャックが心配そうにこちらを見ている。その横に居るホイストもこちらを覗き込んでいた。
いけない。完全に自分の世界に入っていた。
「ああ、すまない。大丈夫だ」
「じゃあ、いっちょ最初の質問をするからね!」
そう言って二人は出力画面の方に向かう。
「じゃあ、ホイスト君。この質問群を読み上げてちょうだい」
「オッケイ」
でも、触れるくらいに何の問題があるのか。純粋な興味だ。
あの時点では漠然としたイメージしか抱いていなかった。もし、ホイルジャックが持ったとしたら。
「まず、好きなものを想像してください」
『それが好きな相手だったら?』
いや、私は別に彼が好きなわけではないはずなのだが。友情以上に何を感じているのか。修理時の接触や普段の何気ないスキンシップ程度なら、このホイストとももちろん交わす。日々の補修のために単純な接触ならホイストとの方が多い。私は軍医としてほかのみんなとももちろん触れる機会が多い。
何が自分にとって問題なのだろう。
『飲むかい?』
ホイルジャックが万が一、私に惚れ薬を盛ったのを知っていて私は飲むのか?
記憶回路のホイルジャックの問いに答えを出す前に、現実のホイルジャックは次の質問を尋ねるように促した。
2015/3/8

しょたクラ音波 (R-18) 後編

今日のしょたクラ音波のお題は、『ダメだけど、イヤじゃない』『好きなように、されたいんだ』『うそでもいい』です。
【あらすじ】全編の最後、音波さんの色気のないぶっきらぼうな「おいで」の後の話。
設定はフォロワーのKさんのものをお借りしています。
※接続している為、18歳未満は閲覧しないでください。

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しょたクラ音波 (R-18) 前編

今日のしょたクラ音波のお題は、『ダメだけど、イヤじゃない』『好きなように、されたいんだ』『うそでもいい』です。
【あらすじ】前回のサンクラしょたんぱから一転、サンクラさんがショタクラにトランスフォーム。前回可愛がられたので、音波さんがお返ししてくれることに――
設定はフォロワーのKさんのものをお借りしています。
(おに)ショタおになので、若干表現やらが男性向けかもしれません。長くなったので、前半後半に分けました。
※接続している為、18歳未満は閲覧しないでください。

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初代ホイラチェ・3

「既に好きなら、飲んで相手の出方を見ないか?とすると、受け入れた時点で告白成功したようなものじゃないか。それにプラシーボってのもあるだろ?だから君がもし――」
熱心に話を聴いてくれるラチェットくんを見ながら、ふいに寂しくなる。
いつも助手として働いてくれる彼が、誰か女性タイプにしろ男性タイプにしろ付き合ったとしたら、こう横にいることもなくなってしまうんだろう。
ただ、なんとなく。誰かが彼に吾輩自作の惚れ薬を盛って、それを彼が飲むと想像したらスパークが落ち着かなくなった。
でももし、君に誰か好きな奴が出来ても、傍には居て欲しいなあ。
そう思いながら、肩に手を置く。
「吾輩がこのエネルゴンに惚れ薬を盛ったって信じるなら、それは惚れ薬になるって思わんかね?」
とにかく、身内の色恋沙汰はやはり気まずいものがある。
ただ単純に友人のプライベートを覗いてしまって心苦しいというのはある。しかし、この助手であり親しい友人でもあるラチェット君へ想像だけでこれだけさびしくなるのだから、本当に彼が誰かに吾輩の目の前で口説かれでもしたら自分はどうするつもりなのだろう。
そこではっとして、掴んでいたラチェット君の肩から手を外す。何だか急に恥ずかしくなって来る。この体勢でさっきの台詞。まるで吾輩がラチェット君を口説いているようじゃないか。
「なーんてね。例えばの話にしろ、もっとうまい事言おうと思ったんだが。こういう文句は思いつかないもんだね」
慌てて照れ隠しにおちゃらけてみせる。
「なんだね。今のは、口説き文句のつもりだったのか?」
「へへ、インパクトが足りんかったかね?」
よかった、変な誤解もなかった。考えすぎだったか。
声を上げて笑ってくれるところを見ると、ひそかに安堵する。
「それにしても、ジョークにせよ、もともとイメージが薄かったから意外も何もないんだが。君はいつまでたっても恋愛ごとには慣れないなあ」
にやりと笑ってそう皮肉を投げかける彼に『ラチェット君が傍にいる日常』を感じる。
しかし、慣れていないという言葉に少しはむっとした。彼がいままでどんな関係性を他と築いていたかは知らないが――そこまで考えて、だがその通りだと自嘲する。
「おっと、痛いところを突いてくれますね」
「医者は悪いところをつついて直す仕事だからな」
『恋愛ごと』ねえ。久しぶりにそんな概念を自分のことで気にすることになるとは。
そんなんで、よく吾輩も惚れ薬を作ろうとしていたな。
「……まあ、それに惚れ薬ってのも良くないアイディアだったかもねえ。これはボツ案かな」
先ほど投げ置いたデバイスの設計図や理論を、データベースの適当なファイルにインプットする。こういうデータが増えるからメモリの増設を何回もせにゃならんのだが、こういうのが後々必要になった事例もあるから馬鹿にならない。
惚れ薬が必要な有事がそうそう起こるとは思えんがね。
「どうして?まだ失敗も成功もしてないじゃないか」
「いや、コンボイ司令官だったら――」
「ホイルジャックは居るか?」
応えようとしたその途端、ラボの扉が開き、司令官が入ってくる。
なんとタイミングの良いことか。このひとには何かそういった想像を超えるような能力でもプログラムされているのか。無意識に働きかけるとか。一度じっくり調べてみたくはある。
「はい司令官、ここに」
「お前が何か惚れ薬を作るって噂を耳にしてな」
あのゴシップ文化はついに司令官にまで伝わってしまったらしい。
「そのことなんですが、司令官。私とラチェット君で相談したところ、作る必要もないじゃないかって話になりましてね。今ちょうどボツにしたところです」
司令官に今までの経緯を説明する。さきほどのやり取りをかいつむ。振り返ってみるとやはり小恥ずかしい。慢心のような理由付けであったが、司令官も吾輩作の成功品についての信頼はあるようで納得してくれる。
しかし、悪い癖だとは思うが、話しているうちになんとなくもったいなくもなってきた。惚れ薬は作らないにしろ、感情についての心理実験くらいならやってもいいかもしれない。すでにそういった類のことは長いセイバートロンの歴史の中で研究され尽くした分野ではあるが、吾輩の専門ではないし、臨床例や実験を再度やってみれば何かには生かせるかも知れない。
「司令官、しかしこの感情の回路に対するデータってのは、のちのち意外と使えるかもしれないので、基本的なものだけデータを集めることだけはご賛同くださいませんか?」
――もちろん、惚れ薬の開発は無し、で。
司令官の顔色を伺いながら、慌てて付け加える。すると、司令官がマスクの下で少し笑ったのがなんとなく分かった。
「いいだろう。誰しも相手の意思に反して相手に何かの感情を強要することは出来ないからな。特に愛情に関しては自由であるべきだ。……何か新しい発見があるといいな、ホイルジャック。期待しているぞ」
その答えを聞いて、やっぱり思ったとおりだと思う。
司令官だったらこういうだろうと思っていた。そうところが尊敬できるのだが、それでいて、ちゃんと科学者にも理解がある。
ラチェット君がセンサーの端で、よかったなとでも言うように微笑んでいるのが見える。
「お任せください」
出来るだけ力強く聞えるよう、吾輩は司令官にそう返した。
2015/3/3

サンクラショタんぱ (R-18)

#jirettai http://t.co/U6x43HQ2qR
じれったいお題ったーの2015/2/23の結果:
今日のサンクラしょたんぱのお題は、『いとおしい、くるおしい』『ごめんね、すきだよ』『押し付けて、つよく』です。
【あらすじ】アクシデントで小さくなった音波さん。直す方法は接続することだと分かる。そこでサンクラさんを部屋に呼びだし――
設定はフォロワーのKさんのものをお借りしています。
※性的行為があるので、18歳未満は閲覧しないでください

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初代ホイラチェ・2

 
 
「それにしても、何を作ったもんかね」
逃げるように飛び出したスペースの外で、言い訳のようにひとりごちる。
まあよかろう。たまには。ラチェット君にああまで言わせたんだ。イモビライザーにしろネガベイダーにしろ、最近は少しばかり、色々と作りすぎたかもしれない。
自己嫌悪気味に下降する気分とともに視線も下を向く。
吾輩が好き勝手にやらせてもらえるのも、コンボイ司令官の庇護の下の恩恵もあるが、ラチェット君が近くにいることも大きい。吾輩が壊したとしても、彼がきちんと直してくれる。セイバートロンでも類無い優秀な医者、この信頼は代えられない。そんな彼の『兵器以外の平和な道具』と言った後のしまったという顔。心配ばかりかけているのは重々承知だったが、吾輩以上にこちらの立場を考えてくれていたとは。
嬉しい、と思いつつも申し訳なさでいっぱいになる。この気分が続く間に、何か次の発明を探そう。出来るだけ、人を傷つけ無そうなもの――
「ホイルジャック!」
明るい声音にふいに頭を上げると、無邪気に笑う黄色い機体がこちらに向かって手を振って見せた。
「なんか暗いけど、どうしたのさ?」
「バンブル君」
この機体にも何かといつも世話になっている。彼の助けになるものでもいい。
平時において比較的おっとりした性格をしているバンブル君なら、何かいいヒントを持っているかもしれない。
「何か最近困ったことはないかね?」
「それって何かの心理テスト?」
「次の発明のヒントになるかと思ってね。必要は発明の母ってよくいうだろう」
「なるほど、さっきは発明について考えてたのか」
当たらずとも遠からず。ほぼ正解だが、そんなに暗かったのだろうか。マスクをつけているせいで吾輩の表情は見えないはずなのだが。
……そんな吾輩の心配をよそに腕を組んで考え込み始めたバンブル君に少しだけ安心する。
気にしすぎたか。
「うーん、オイラは特にないなあ。でも、昨日スパイクがカーリーにデート誘ったら断られたって言って落ち込んでた、ってスパークプラグが言ってたって聞いたっけ」
「これまたずいぶんと伝聞が多いねえ」
彼が日ごろよくつるんで回っている少年の赤裸々な私生活を垣間ながら聞いてしまい、思わず苦笑する。サイバトロンの皆の間で流行っている人間のテレビドラマのせいだろうか。ささやかなゴシップがこの狭い基地の中でよく流れるようになった。
「えへへ。でも、参考になったかな?」
小さな噂に無邪気に笑っている様子を見るのは微笑ましいが、本人がそれを聞くとなると話は別だ。話をすればなんとやら
「おや、バンブルにホイルジャック。なんの相談だい?」
「スパイク!今、オイラたちで――」
噂の主がそう叫びながらこちらに向かって走ってくるのをオプティックが拾い上げ、咄嗟に何も知らないふりをした。誰にでもプライベートはある。
そのまま素直に応えそうなバンブル君を制して先に質問に答える。
「例えば、二者間の関係性を改善するものを作ったらいいんじゃないかって話をしていたんだよ。もし吾輩が恋の悩みなんかを解消する発明品、例えば惚れ薬なんかを作ったら、君は使うかね?」
しまった。自然に話を振ろうとした結果、すごく遠まわしに振られた一件を知っていることをばらしてしまったように思える。失敗した。ぽかんと呆気に取られる顔を見て、もうちょっと言い方を『調整』すればよかったと反省する。
「スパイク君?」
おそるおそる黙りこくった彼の名前を呼ぶ。はっと我に返ったスパイクは意外にも怒ってはいなかった。
「うーん、確かに効果があって害が無いなら興味がないわけじゃないけどさ。今回は兵器とかじゃないんだってちょっとびっくりしたんだ。だってホイルジャックが言うから」
びっくり。その言葉を言われるほど、吾輩と兵器のイメージが結びついていたとは。まあ、地球で目覚めてからというもの有事ばかりだったから致し方ないのかもしれない。
吾輩だって、ちょこちょこ兵器以外のものを作ってきた自負があるのだがね。でも、イモビラザーの時はスパイクもまきこんでしまった。これじゃあラチェット君にもああも言われるわけだ。
「まあ、それもあるけど。気分転換ってやつさね」
「なるほど。たまには違うものを、ってことか」
それにバンブルが笑い声を上げて素直に応える。
「おいら知ってるよ。アラートに管理が必要な危険な兵器が多すぎるって小言もらったんでしょう」
「はは、やるなあバンブル。僕はてっきりラチェットに何か言われたんじゃないかって思ってたよ」
……本当、よく見ているよ。このふたりの無邪気な鋭さには脱帽する。マスクなんか関係なく、これは幼い勘の類かね。
求めていたヒントは得られたものの、吾輩も流石に力なく笑うしかなかった。
「はは、まあ楽しみにしておいてくれよ」
***
尋ねられた質問に素直に返したホイルジャックへの返答の音声は、自分でも恥ずかしくなるくらい上擦っていた。
「惚れ薬?」
「そう、惚れ薬」
『相手の予想を超えろ』とはよくホイルジャックが言うが。ブレインの片隅にものぼっていなかった言葉に、聴覚がおかしくなったのかと思った。しかし、驚いた私に喜んでいるホイルジャックの様子を見る限り、大真面目らしい。
まさか、そんな欲がこのひとに――いや、まさか。
頭を振って、エラーだらけのブレインを荒治療ながら回復させる。
「誰の需要で?」
「誰でもないさ」
「じゃあ君の需要ってことかい!?」
言葉早に返しながらも、再度ブレインの回路は混乱をきわめる。ホイルジャックにそんなものを作ろう盛ろうなどという気概やら欲望があるとは思ってもいなかった。出会ってから今まで、惚れた腫れたで他の機体なんかより発明品や実験に夢中になっていた彼が。
しかし、流石のホイルジャックも何か感じ取ったのか、設計図を打ち込んでいたデバイスを放り投げてこちらに居直った。
「まさか!たまたま人の色恋沙汰の噂を聞いたところで、我輩のブレインにピーンと来たんでね!」
誰かの需要にと勇んで出て行ったが、結局は自分の興味じゃないか。
そう呆れる。しかし何故か分からないが、少しほっともしている。やっとブレインの動作が落ち着いてくる。
惚れ薬。色恋沙汰。冷静になれば、文字通り『ラブ&ピース』というやつではある。なるほど戦争からは一番遠くにあるようにも思える。
「ラチェット君はどう思うかね?」
緊張したように尋ねてくるところを見ると、先ほどの小言がかなり効いてしまったのだろう。強く言いすぎたか。あえて良い悪いには触れずに、医者としてのコメントを返す。
「確かに誰かを性的に興奮させることは出来る。人間ならフェロモン濃度を上げたり、催淫作用や興奮作用がある薬物を投与すればいい。でも、一時的ならともかく、薬でひとの感情を動かせるって思うのかい?」
「我輩の才能が摂理をうちまかせたら。なーんてね!」
冗談めかして言うけど、ちょっと末恐ろしくはある。ホイルジャックならいつか本当に完成させそうだから反応に困る。感情を司る回路に何か外部から操作出来るとしたら。それも戦意喪失させることが出来たら。応用で立派な兵器転用に出来るじゃないか。
このひとも難儀だな。私が心配しすぎているのかもしれないが。
でも――
「なんでマシンじゃなくて薬なんだ?」
純粋な好奇心に負けて尋ねる。ホイルジャックといえば、科学者と言えど、パーセプターと比べたらどちらかといえば工学の分野が専門だ。
「薬だったら、飲ませなきゃいけないでっしゃろ?マシンで知らないうちに、ってよりはまだひとりよがりって訳じゃない。吾輩がそんなもの作ったってことは、完成すれば周知になる。そうすれば――ああ、それじゃあこんなもの作る必要もないじゃないか」
何かの結論に話している内に達したらしい。自己完結的に話を切り上げてしまう。
新しい発明品の構想から、その発明品を諦めるところへと飛んだ思考を追いかけられずにいる私は置いてけぼりをくった気分になる。微妙な気持ちでいると、我に返ったらしいホイルジャックが解説を始めてくれた。
「例えば、吾輩がどんなやつにでも効果がある惚れ薬を完成させたと耳にしたら、どう思う?」
「どう、って君が成功したっていうなら、効くんじゃないか?」
近くに転がっていたシリンダーを持って振ってみせる。
ホイルジャックが作った。しかも完成品。それなら、効果は認めざるを得ない。
「でもって、そんなタイミングで、誰かが急に君に飲ませるように液体エネルゴンを渡してくる。そしたらどう思う?」
「まさかとは思うけど、盛られたかな?とは思うよ」
ホイルジャックはこれまた近くにあった液体状のエネルゴンに握っているシリンダーから何かを入れる動作をしてみせる。過度に演技じみてはいるが、なんとなく言いたいことは分かってきた。
「飲む?」
「薬が入っている危険があるなら飲まないよ」
「でも、それを渡してきたのが好きな相手だったら?」
好きな相手だったら。
誰も浮かばずに、しかし現実に目の前に差し出されたエネルゴンを見てありありと想像してしまう。
既に好きな相手だったら。しかも惚れ薬を盛ってくるってことは、少なからずこちらに好意を持っているということだ。
差し出されたエネルゴンを受け取り、手の中のそれとホイルジャックを交互に見る。
「既に好きなら、飲んで相手の出方を見ないか?とすると、受け入れた時点で告白成功したようなものじゃないか」
まあ、そうかもしれない。
「それにプラシーボってのもあるだろ?だから君がもし、吾輩がこのエネルゴンに惚れ薬を盛ったって信じるなら、それは惚れ薬になるって思わんかね?」
演技の延長上で肩を掴まれ、至近距離で覗き込まれる。
ホイルジャックが、私に、惚れ薬をねえ。
ただの仮説だが、ぼんやりと想像できなくもない。
今、このエネルゴンに薬が入っていたら。私は――?
2015/2/21