バケモノケモノ
駆け抜けた後ろの路地から追いかけてくる足音がぴったりと着いてくる。街を走れば池袋に長く居る連中は驚いた顔をして俺達を見た。そして関わりたくは無いと視線を逸らしていく。助けてくれそうな奴は1人もいない。サイモンに至っては臨也の手に獲物が無いのを見て、仲良しだなどとニコニコしていた。門田も遊馬崎も、ありあまる異常さに目を見開いただけ。狩沢に至っては恍惚といった表情でむしろ臨也を応援していた。 臨也との殺し合いの鬼ごっこは池袋では過去に何回かしている。が、それらの全てと今回は追う者と逃げる者が異なっていた。というか、どうして俺は臨也なんかから逃げているんだとも思える。しかし後方に臨也の姿を認識した途端に逃げ出したくなった。あの日に奴が俺にしたことを白昼に堂々とするわけがないとは分かっているというのに。
「逃げ場なんてないのに」
後ろで臨也が笑ったのが聞こえる。俺はついに逃げるのを止めて、進行方向に沿って並ぶ標識・ゴミ箱・看板、すぐに取り上げられる物体を後ろに投げ始めた。
「うるせぇ、ノミ蟲野郎!」
「シズちゃん…素直になりなよ」
呆れが混じった声が聞こえた。
俺は一体何から逃げ出しているんだ。あいつの言う『愛』を受けることか、俺が愛することか、臨也という男の底の知れない恐ろしさか。しかし、あいつからの歪んだものはあの日に確かに受け入れてしまった。じゃあ俺が愛することか?人を傷つけるだけの俺は自分からは愛してはいけないと割り切ったはずだったが、あの男はそこにも無理矢理入ってきた。
「ねぇ、シズちゃん、何が、そんなに、怖いのさ」
ものを投げつけることを始めたせいか、臨也との距離が段々とすぐ後ろまで近づいているのが分かる。振り返れば、子どものようにあどけない残忍さと喜びが混じった顔で臨也が笑った。
袋小路の道が見えた先で、形勢逆転、という言葉がよぎった。
「捕まえた」
2010/5/19 (titled by くのいち)