デュラララSS詰め - 5/8

秒針が失われても誰も困らない

もし俺が考えてなかったように死んだ後にあの世があったら、もし魂なんてものがあったとしたら、あの遊びで自殺した人数を数えるビルの屋上に彫っていた正の字に俺の数を付け足そう。落ちる瞬間まで、体が傾いている間にそこまで考えていたのに。いつもの死への恐れと敬意が本当に嘘みたいだったのに。

「大嫌いだよシズちゃん、何で?『俺が殺さないのにお前が死んだら目覚めが悪いから』だなんて言わないでよね」

シズちゃんは俺を殺すことなんか出来ないくせに。俺の足を掴むシズちゃんがぎりりと奥歯を噛み締めた。頭を地面に向けていた俺は空へと持ち上げられて、そのまま安全な床に投げ転がされた。
その摩擦でジャケットが擦れて破けたのが分かった。

「…だって、シズちゃん、俺のことを大嫌いだなんて言っていても全力で来ないじゃない。怖いんでしょ?殺すのが。罪歌相手に全力出してたみたいだけど…君が全力なんかだしたら拳一発で人は簡単に死ぬ。でも罪歌の子どもで死んだ奴はいなかった。違う?」
「うるせぇ」

シズちゃんの口元に明かりが灯り、白い煙がそこから吐き出された。

「手前だって自分の手で殺す度胸もねえくせに。死ぬのが怖いから。俺が助けるって分かってて落ちた。違うか?」
「違う…って言ってやりたいけど。ああそうだよ、やっぱり君が大嫌いだよシズちゃん」

煙が吸い込まれるようにに消えていく。俺は死ぬのは怖い弱虫か卑怯者だよ。そこまで言おうかとも思っても、多分シズちゃんは言わなくても分かってるだろうとも思えて口を閉じた。

2010/5/30 (titled by mutti)