夜の意外と冷たい風がビールで冷えた体にビュウ、と音をたてて辛くあたる。がしりと掴まれている肩の所だけが暖かいのが妙だ。
イギリスを歩かせてはいるが、いつも以上にうまく行かない。
「ちゃんと掴まるなら掴まれよ」
俺のぼやきは聞こえていない。
しかし1ブロックもこうやって甘えたように歩かさせられると、結構こちらとしてはつらい。その旨を小さく呟くと、急に肩にかけられた腕が外れて自分でさっさと歩き出した。
ふらつく足で身軽にも、道の脇にまばらに積み上げられた低いレンガに登ってバランスをとってみせる。
「何やってんのよ坊ちゃん」
「綱渡り」
いつもお得意のつまらないジョークなのかそれともマジなのかは分からないが、ぶつぶつと何かを呟きながら先を歩く酔っ払いの子どもっぽい態度には、半ば呆れた笑みしか起こらない。
イギリスは急に上機嫌になって、笑い始めた。最初は小さく、後はだんだん声が大きくなる。
「おいおい、今何時だと思ってんだよ」
そうこぼした俺に、イギリスがこちらに振り向く。その顔はまだ酒気に赤く火照ったままだった。