青い薔薇
指を二本立てて見せると、向かいに座る日本が笑った。しかし誰にやるのかまでは聞いてこない。
分かってるからだろうけど。
「二株くらいなら掛け合ってみましょうか。お二人には、ずいぶんとお世話になってますし」
「……やっぱり、分かってるのね」
ええまあ、と日本が曖昧にはぐらかして立ち上がって出て行った。伊達に年はくっていないようだ。それとも、自分が分かりやすいのか。青い薔薇の開発を日本とオーストラリアが研究開発しているなんてニュースを小耳に挟んだときから、庭いじりのすきなあいつにあげたいなどと思ってしまったのだからしかたがない。
しばらくすると、青い花の咲く小さな鉢を日本が両手に持って戻ってきた。あの短い時間でどうやったのか、綺麗にラッピングまでされている。
「悪いな、気ぃつかわせちゃって。発売前なんだろ?」
「いえいえ。それにしても、可愛い恋人の為に、こっそり花を用意するなんざフランスさんも粋ですね」
そんなんじゃない、と笑っては返すけれど、日本はまだ興味深げに、目を細めるだけだった。
本当に日本にはかなわない。
「時々、勘違いしそうになるよ。俺はあいつと『そういう関係』には絶対なれないのに」
「私にはよく分かりませんが、そういうものなんですか」
返事を噛み砕くと、熱いグリーンティーを煎れたカップを渡された。
「でも、青いバラの花言葉は『奇跡』なんですよ?」
カップの湯気の向こうで日本が微かに笑った気がした。
***
「うわっ、お前これどうした」
人の家のリビングに入った途端、イギリスが感嘆の声をあげた。まぁ、無理もないだろう。彼の目の時間を止めたのは青い花。
遠い日には夢や幻だった青い薔薇が大きく蕾をつけて、植えられていた。不透明なラッピングを通しても分かる青さにイギリスのため息が漏れる。
「綺麗だろ?日本に無理言ってまだ発売前なのに二株譲って貰ったんだ」
お前こういうの好きだしな、とベランダに手招く。もう一株の鉢の花はすでに夜に甘く咲いていた。
「これ、貰っていいのか?」
「お前の為に二株貰ったしな。後で返せともいわねーよ」
子供だった昔みたいに、甘えるように俺に聞くイギリスがおかしい。笑って了承すると、イギリスは花のように笑う。
その笑顔に、胸の内が擦れた。
「ありがとうな」
「……ああ」
英単語としてのblueroseの意味は「不可能」、そして花言葉は「奇跡」。
「咲くのが楽しみだな」
日本はこれのことを言っていたのだろうな。
願わくば君の胸に、いつか青い薔薇が咲くことを祈る。奇跡を待っている俺のために。
2008/7/22