サイレント映画3本感想

『千年女優』、『パプリカ』を見て極彩色の世界に圧倒されたので、お正月サイレント映画3本立てで一人レイトナイトごっこ。深夜から見始めたからうっかり夜が明けてびっくりした。
 
『月面旅行』(1902)
世界初のSF映画。観終わってから撮られた年号を見て眩暈を覚えました。日露戦争の2年前にこのクオリティの映画が撮られていたのか!月の目にロケット砲弾が突き刺さるシーンや月面から地球を見るシーンなどの表現方法がとてもシンプルだけれど、今のCGに慣れた私としてはすごく新鮮だった。原作の小説からかなり説明を減らしているらしいからストーリーはめちゃくちゃに思えるけど、全体的にコミカルでテンポがよくって面白い。
 
『メトロポリス』(1927)
字幕でエレベーターやヒエラルキーが表現されていて面白い。エキストラ、セット、どれをみてもすごい。『SF映画の原点にして頂点』の名に恥じない。白黒だから絵やミニチュアや張りぼてでもすごく映える。デザイン、発想だけでも本当に一見の価値ありって感じ。人間の価値や社会の歯車とか訴えかけるものが多くて驚いた。ブレインと手足との差。オーウェルのAnimal Farmの豚たちとボクサーたちを思い出しました。過去のことではない現代にも続く問題が多くて、感動を禁じえないぞこれ。
古典的あらすじもあるけれど、そのなかで「10時間が終わることはないのか!」という絶叫や、入れ替わった労働者が繁華街に行っちゃう妙なリアリティがたまらない。でも「ヨシワラ」って名前の繁華街にはさすがに笑ってしまった。
キリスト教的暗示が多くて、それだけでも見入るに事欠かないし。すでにパブリックドメインなのでニコニコで観たのだけど、「三位一体」というコメントには構成やモチーフ的にすごく納得した。ただ、やっぱり父と子と精霊とするには労働者がふさわしくないね。息子がキリストだとすると、とてもわかるんだけど、やっぱり差がありすぎる。終わった後にメイキングと欠損補完動画に飛んだあたり、やっぱりニコニコのクオリティは高い。
 
『アンクル・トムの小屋』(1903)
名場面集って感じなのかな?その割に、一番好きなエヴァンジェリンとトプシーの抱擁とそれを見てのオフィーリアの自覚のシーンとかが無くって呆然とした。前に原語版でざっとだけど読んでるから大体の流れは分かるけど、これぶつぶつ過ぎるな……あと誰が誰だかたまにわからん。
 
 
今回改めてわかったこと:サイレント映画は馬鹿にならない。映画は集中できないので苦手なんですが、文学に言える「良いものは良い。古いもの≠良いものとは限らないけれど、評価されているものには必ず価値がある」の法則が映画にも通じることだと痛感しました。当たり前なんだけどね。自分の分野じゃないとやっぱり忘れかけてしまう。
 
映画とか観てると感情移入しすぎてイライライライラしてしまうので、サイレントはそうならなくって一気に見れたから、自分に合ってるのかも。次は『戦艦ポチョムキン』『カリガリ博士』とか観ようかな。
*他ブログの閉鎖を機に細々書いていたものの転載*

T. S. Eliot – The Waste Lan

エリオットの”The Waste Land”。エリオットの支援者でもあり友人でもあるパウンドがこの詩にかなりアドバアイスを寄せていているとかで、もともとのドラフトからはかなり変化してて、合作のようなものとも考えられるかも……っておいおい。
さまだらない語り手、場所、時間。Allusionの多用。英語以外の言語の使用。最初は脚注と本文行ったり来たりで、短い詩なのに読むのにすごく時間がかかる。象徴として捉えるのも大変。
ネ イティブの子でも読んでて混乱したそうな。そこで、Youtubeで英語話者の人が朗読してる動画を聞くのがオススメかも。エリオット本人の肉声のビデオ もあるYoutubeは本当にすごい。数行読んでるだけで頭がおかしくなりそうになるME作品の朗読も結構上がってるから、本片手に流すと強制的に目を通 さなくちゃならなくなるのですごく楽。カンタベリー物語では非常にお世話になっております。
とまあ、ザーッと読んでるうちにだんだん慣れ てきて、「この詩はなんだかすごいものらしいぞ」と詩分析初心者のわたしでも思えてくるのがすごい。まあ、出だしの”April is the cruellest month”で始まる連からして、すごく引き込まれるんだけど。 とにかく、こういった混沌とした構造やテクが”waste”な状況を象徴している。性的 なものを匂わす箇所などにWW1後の崩壊したアイデンティティや価値観が垣間見える。この詩のタイトルの「land」は荒れ果てた心のことをいってるん じゃないかな、と読んでいて感じた。
(断っておくと、わたしは英米文学専攻でありながら詩を精読して分析する、というのは初心者。留学来てから「やらなあかんよな」と始めてすでに詰んだ。教授はすごく素敵だけど、実力から考えたら取らなきゃよかった!……のかも) 
エ リオットは、English man in NYならぬAmerican in Britain。(アメリカでは”genteel tradition”の中で育ったらしいですが。)このエリオットで面白いのが、私がアメリカ文学史で読んでる”The Norton Anthology American Literature Shoter 8th Edition Vol.2″にも、日本の大学での講義で教授がたまに使ってた”The Routledge History of Literature in English – Britain and Ireland”にも載ってるところです。えっと、確かにアメリカ人だけど、英国人でも……う~む。これがよく教授が言ってる「英語で書かれたものは全て English Literatureとして取り入れちゃう英国のしたたかさ」ってやつなのだろうか。 
*他ブログの閉鎖を機に細々書いていたものの転載*